低走行とは具体的に何km以下を指すのか?
結論から言うと、「低走行」に法的・公的な厳密定義はありません。
中古車業界で慣用的に使われる販促用の表現で、文脈(年式、車種・用途、相場)によって指す距離が変わります。
とはいえ実務では、次の二つの物差しで判断するのが一般的です。
1) 絶対値(総走行距離)による目安
– 〜1万km 新古車・登録済未使用車に近いごく少走行。
年式が2〜3年以内であれば「極低走行」と呼べる領域。
– 〜3万km 年式が3〜5年程度までなら「低走行」と打ち出されることが多い。
スポーツカーやコレクター向け車は特にプレミアムが乗りやすい。
– 〜5万km 多くの車種で「比較的少なめ」と扱われる上限。
年式が5〜7年程度なら低走行の範疇に入ると評価されやすい。
– 10万km未満 心理的・価格的な一つの節目。
10万kmを越えると「過走行」と表現されることがある一方、現代の整備状況では10万km自体は寿命の線ではありません。
2) 年式(経過年数)で補正する目安
– 「1年あたりどのくらい走っているか」で見る方法が実務的です。
日本の乗用車の平均年間走行距離はおおむね8,000〜10,000km程度とされることが多く、これを基準に「平均よりかなり少ない=低走行」と判断します。
– 経過年数で割った年間走行距離が6,000〜7,000km以下なら「低走行」、5,000km以下なら「かなり低走行」という評価が現場感覚として広く通用します。
具体例(年式補正の考え方)
– 登録3年で総走行15,000km → 1年あたり5,000km。
明らかに低走行。
– 登録5年で総走行30,000km → 1年あたり6,000km。
低走行。
– 登録8年で総走行50,000km → 1年あたり6,250km。
低走行寄り。
– 登録10年で総走行70,000km → 1年あたり7,000km。
平均より少し低め〜低走行。
– 登録10年で総走行90,000km → 1年あたり9,000km。
標準的。
根拠(なぜその数値になるのか)
– 公的統計の傾向 国土交通省の統計や業界団体・保険会社の調査では、個人使用の乗用車の平均年間走行距離は概ね8,000〜10,000km程度と示されることが多いです。
地域・用途によって振れはありますが、このレンジが「年式相応」の実務的な基準になっています。
軽乗用は若干少なめ(6,000〜9,000km/年程度)という調査結果もあります。
– 業界の慣行 中古車販売サイト(カーセンサー、グーネット等)や買取事業者(ガリバー等)の解説では、「年1万kmが目安」「10万kmは一つの節目」といった説明が繰り返し用いられます。
これらは統計の平均値と市場価格の動き(相場)が接続した、実務のルール・オブ・サムに近いものです。
– 相場の節目 流通・オークション相場では、総走行3万km、5万km、10万km付近に価格の節目が生じやすい傾向が知られています。
例えば、同年式同条件なら3万km未満はプレミアム、5万km超で徐々に値引き、10万km超で買い手が絞られる、といった動きです。
これが販売現場に「低走行」というラベルを積極的に付ける誘因になっています。
セグメント別の違い(同じ「低走行」でも基準が揺れる理由)
– スポーツ/趣味性の高い車種 総走行3万km未満は強い訴求点。
年式が古くても低走行だと相場が跳ねやすい。
– 商用/ハイブリッドの営業用途 平均が高くなるため、同年式でも低走行のハードルが上がる(例 5年で8万kmは商用では普通でも、一般乗用としては多め)。
– 軽自動車・都市部のセカンドカー 年間走行がもともと少ないため、同年式なら低走行個体が相対的に見つけやすい。
– コレクター/限定車 絶対値で1万〜2万km台が「極低走行」として別格扱い。
注意点(低走行=無条件に良い、とは限らない)
– 年式劣化 ゴム・樹脂パーツ、シール、ホース、タイヤ、バッテリー、燃料系は「時間」で劣化します。
年式が古いのに低走行の車は、使用機会が少ないことで内部に水分やガム質が残り、むしろ整備費がかさむこともあります。
– 走行環境の差 短距離・渋滞・アイドリング中心は距離が伸びなくてもエンジン・AT・ブレーキへの負荷が大きい場合があります。
高速長距離の方が機械的には良好なことも。
– メーター改ざんのリスクは大幅に減少したものの、メーター交換歴や記録の断絶があれば要確認。
オークションなど業者間では「走行距離管理システム」で整合性をチェックしますが、一般購入でも点検記録簿や車検時記録で裏取りを。
– 定期整備歴が重要 低走行でもオイル・冷却水・ブレーキフルード等の期限整備がなければ、低走行のメリットが薄れます。
実務で使える判定フレーム(シンプル版)
– まず「総走行距離 ÷ 経過年数」で年平均を出す。
– 7,000km/年未満 → 低走行。
5,000km/年未満 → かなりの低走行。
– 7,000〜10,000km/年 → 概ね標準。
10,000km/年超 → 多め(用途による)。
– さらに絶対値の節目(3万・5万・10万km)を参考に価格・希少性を補正。
購入・売却時の活用ポイント
– 低走行を謳う車は、年平均と絶対値(3万/5万/10万km)を両方見る。
– 点検記録簿(できれば新車時から連続)で年ごとの距離が右肩上がりに整合するか確認。
– 車検・リコール・法定点検の伝票に記載された距離も照合。
メーター交換歴があれば交換時の距離証明があるか要確認。
– 試乗で機関・ATの挙動、足回りのヘタリ、タイヤのひび、ゴム類の硬化をチェック。
低走行でも年式劣化は隠せません。
要するに、「低走行」とは
– 法的定義はないが、市場では「年式相応の平均(約8,000〜10,000km/年)より明らかに少ない」車を指すのが実態。
– 実務目安は「年平均6,000〜7,000km以下」あるいは「年式が新しめなら総走行3万〜5万km以下」。
– ただし車種・用途・相場で基準は揺れる。
最終判断は年平均距離+整備履歴+現車状態の三点セットで行うのが賢明、というのが根拠付きの答えです。
低走行車を選ぶメリットとデメリットは何か?
低走行車(一般には年1万km前後の平均より大幅に少ない走行距離、例えば年3000~5000km程度)の中古車を選ぶことには、明確なメリットと見落とされがちなデメリットの両面があります。
以下では、その理由や根拠も交えて、実務的な観点から詳しく解説します。
1) 低走行車の主なメリットと根拠
– 機械的摩耗が少ない
走行距離が少ないほど、エンジン内部(ピストンリング、シリンダーライナー、カム、バルブトレイン)、トランスミッションギヤ、デファレンシャル、ハブベアリングなどの走行由来の摩耗は進みにくいのが基本です。
これは材料工学と潤滑工学の基礎に基づくもので、摩耗は摺動距離と荷重・潤滑条件に比例して蓄積するためです。
結果として、圧縮低下やギヤ鳴き、ディフのバックラッシュ増大など、距離起因のトラブル発生確率は相対的に低くなります。
– 足回りやブレーキの消耗が少ない
ブレーキパッド・ローター、ショックアブソーバー、ブッシュ類は、走行距離にある程度比例して劣化します。
低走行車では残量や性能が保持されている傾向が強く、購入直後の整備コストを抑えやすいという利点があります。
– 内外装の使用感が少ない
ステアリング、シフトノブ、ペダル、シートサイドの擦れ、スイッチ類のテカリなどの物理的な使用痕が少なく、全体の質感が高い個体に当たりやすい点は、中古車の満足度や下取り価値にもプラスに働きます。
– 市場価値(リセール)が高め
中古車査定の実務では、年式と走行距離が価格の主要因です。
業界の査定基準でも距離が少ないほど評価点が上がる傾向が一貫しており、将来売却時にも有利になりやすいのは統計的・市場慣行上の根拠があります。
– 保証や消耗品の残存余寿命が期待しやすい
比較的新しい低走行車ではメーカー保証が残っているケースがあり、またタイヤやブレーキなどの消耗品寿命にも余裕がある可能性が高いです(ただし時間劣化の項は後述のデメリット)。
2) 低走行車の主なデメリットと根拠
– 「時間劣化」は距離に関係なく進む
ゴム・樹脂部品(シール、ホース、ブッシュ、ワイパー、ウェザーストリップ)、塗装、シートフォーム、接着剤などは、紫外線・熱・酸素・湿度などにより時間とともに劣化します。
タイヤは日本自動車タイヤ協会(JATMA)等でも5年を超えたら点検を強化、10年を目安に交換を推奨する旨の周知があり、ブレーキフルード(DOT3/4)は吸湿性が高く多くのメーカー整備書で2年程度ごとの交換が推奨。
冷却液やタイミングベルトは距離と年数のいずれか早い方での交換指定が一般的です。
つまり「低走行=メンテ不要」ではなく、時間由来の整備は避けられません。
– 短距離・低負荷運転の弊害
低走行車の中には、近距離移動やアイドリング中心でしか使われていない個体が少なくありません。
エンジンが十分に暖機されない運転が多いと、以下の問題が生じやすくなります。
・エンジンオイルの燃料希釈や水分混入(結露起因)による潤滑低下やスラッジ形成
・マフラーや排気系内の結露・腐食(短距離では水分が蒸発しきらない)
・直噴エンジンでのインテークバルブ堆積物増加、スロットル汚れ
・プラグ被り、O2センサーや触媒の劣化加速
ディーゼルでは短距離走行が続くとDPF再生が完了しにくく、堆積・詰まりや再生頻度増による劣化を招くことがあります。
これらはメーカーのサービス情報やSAE論文等でも一般に指摘される現象で、距離が少なくても運転パターンが悪いと健康状態が良くない個体があり得ます。
– 長期保管による不具合リスク
ほとんど動かされていない車は、燃料の酸化・ガム化、バッテリーのサルフェーション、ブレーキピストン固着やローター錆、シール・ガスケットの乾燥収縮、タイヤのフラットスポットなど、保管特有の問題が発生しがちです。
ガソリンは数カ月で品質が劣化し始め、半年〜1年で始動性や噴射系統への悪影響が現れる場合があります。
– メーター距離の信頼性の問題
走行距離計の改ざんは法令違反ですが、完全にゼロとは言い切れません。
日本では車検記録や点検整備記録簿、第三者機関(AISなど)の検査履歴、「走行距離管理システム」照会等で整合性を確認できますが、低走行という付加価値ゆえに不正の動機が生まれやすいのも事実です。
– 価格プレミアムが割高になることがある
中古車市場は「低走行」を強く評価するため、同年式で距離が少ないだけで価格が大幅に上がることがあります。
しかし、実際の維持費や整備費の差額でそのプレミアムを回収できるとは限りません。
特に年式が古いのに距離が少ない車は、時間劣化による一括整備(タイヤ、フルード、ベルト、ホース類等)で初期費用がかさみ、総支払額で見ると「中走行の整備履歴明瞭な個体」のほうが合理的なケースもあります。
– 電動車でのカレンダー劣化
ハイブリッドやEVでは、走行距離よりも「年数」「高温曝露」「高SOC放置」によるバッテリーのカレンダー劣化が支配的になることが多く、低走行でも容量低下が進んでいる事例があります。
多数の学術研究やOEMのユーザーガイダンスでも、熱や高い充電率での放置が劣化を加速することが示されています。
3) 向いている人・向いていない人
– 向いている
・新しめの年式で、定期的に長めの距離を走り、記録簿が揃った個体を選べる人
・内外装の美観やリセールを重視する人
・納車後すぐに大きな走行距離を伸ばす予定がない人
– 向いていない(注意が必要)
・古い年式の極端な低走行(保管歴が長い)を選びがちな人
・購入後すぐに安心して長距離を走りたいが、初期整備に予算を割けない人
・運転パターンが短距離中心で、さらに低走行を重ねる使い方になる人(短距離由来の弊害が積み上がりやすい)
4) 購入時のチェックポイント(低走行ならでは)
– 記録と整合性
・車検証の「点検整備記録簿」やディーラーの入庫履歴で、年次ごとの走行距離推移が連続的か確認
・メーター交換歴(交換時距離の記載)や第三者機関の検査結果
– 使用状態の痕跡
・ペダルゴム、シフトノブ、ステアリング、運転席座面サイドの擦れ量
・ドアヒンジ、ラッチ、シートレールの使用感
・エンジンルームの汚れ方(距離の割に極端に綺麗/逆に汚い)
– 時間劣化の点検
・タイヤの製造年週(サイドウォールのDOT刻印)とひび割れ、硬化
・ブレーキローターの錆、摩耗の段差、引きずり
・ラジエーターホース、ベルトの硬化や微細なクラック
・バッテリーの製造時期、始動性、補機電圧
・オイルフィラーキャップ裏のマヨネーズ状スラッジ(結露の兆候)
・排気終端・遮熱板周りの錆
– 試乗での確認
・冷間始動からのアイドリング安定性、白煙・異音の有無
・AT/MTの変速ショックや遅れ、クラッチの切れ・繋がり
・足回りの異音、直進性、ブレーキ鳴き・ジャダー
– 電動車なら
・ハイブリッドのSOC変動の自然さ、EVはSOH(健全度)推定値の確認、急速充電履歴や高温警告の有無
5) コスト・バリューの考え方
– 価格差の合理性を数値で比較
例えば、同年式で5万kmの車より2万kmの低走行車が30万円高い場合、その3万km分で節約できる整備・消耗費を見積もります。
一般的に、3万kmで想定される差はブレーキ・タイヤ・オイル類の一部に留まり、大規模な機関オーバーホールが必要になる可能性は低いことが多いです。
初期整備(経年交換)費用を上乗せして総額比較し、「低走行プレミアム」が妥当かを判断するのが賢明です。
– 年式と距離のバランス
「新しめ×低走行」が最も失敗が少なく、「古い×極低走行」は時間劣化の補修費で逆転しがちです。
商用系や堅牢設計の車種では「中距離×整備履歴充実」のほうが費用対効果が高いこともあります。
6) よくある誤解の整理
– 低走行=ノーメンテで安心は誤り
メーカーのメンテナンスノートは多くの項目で「距離または期間の早い方」を採用。
ブレーキフルード2年、エアコンフィルター1年、冷却液やベルト類も年数指定が一般的です。
– 低走行=エンジンが良好とは限らない
短距離・低温運転が多いとオイル劣化やカーボン堆積が進みます。
定期的な長距離走行で温間化し、堆積物を燃焼させる使い方が望ましいです。
– 展示車・試乗車は低走行で状態が良い?
メーカー管理で整備は適切な一方、短距離の冷間始動や高回転テストが繰り返されるため、個体差を見極める必要があります。
7) まとめ
低走行車の本質的なメリットは「走行起因の摩耗が少ないこと」と「市場評価が高いこと」にあります。
一方で、見逃しやすいデメリットは「時間劣化が避けられないこと」「短距離運転や長期保管の弊害が蓄積している可能性」「価格プレミアムが割高になり得ること」です。
根拠としては、メーカーの整備基準における期間指定、ブレーキフルードやゴム類の材料特性、短距離運用による油劣化・結露・排気腐食の機構、ディーゼルDPFや直噴の堆積問題、そして中古車査定実務における距離と価格の相関が挙げられます。
最も失敗が少ないのは、年式が新しく、低走行であり、かつ「定期的に走らせていた履歴(記録簿)」「時間劣化部品の適切な交換」が確認できる個体です。
低走行であること自体をゴールにせず、時間劣化と使用履歴を総合評価し、プレミアムに見合う価値があるかを総額で見極めることが肝要です。
低走行でも起こりやすい劣化や故障リスクはどこにあるのか?
低走行は「距離での摩耗が少ない」という大きなメリットがある一方、走行距離とは無関係に“時間”や“使用頻度の低さ”で進む劣化モードが存在します。
むしろ、動かさないことが引き金になる不調も多く、低走行=安心とは限りません。
以下では、低走行でも起こりやすい劣化や故障リスクを部位・系統別に詳しく説明し、その根拠(材料劣化のメカニズムや一般的な規格・指針、整備・研究知見)も添えます。
12Vバッテリー(鉛バッテリー)
– 起きやすい症状 自然放電とサルフェーション(硫酸鉛結晶化)により容量低下、始動不良、アイドリングストップ不可、警告灯点灯。
– なぜ起きるか 鉛蓄電池は放置中でも数%/月で自己放電します。
短距離・低回転の運転ではオルタネータの充電が追いつかず、慢性的に低SOC(充電率)となりサルフェーションが進行します。
低温時は化学反応速度が低下し、さらに充電不足が深刻化します。
– 根拠 鉛電池のサルフェーションと低SOCの関係はバッテリー技術資料(例 Battery University等の教育資料、各バッテリーメーカーの白書)で広く解説。
道路運送車両メーカーや整備書でも「時間基準交換」や長期保管時のメンテナ充電を推奨しています。
駆動用バッテリー(ハイブリッド/EV)
– 起きやすい症状 走行距離が少なくても容量劣化(カレンダー劣化)、セルバランス悪化、BMSが容量を制限。
– なぜ起きるか リチウムイオン電池は“使わなくても”時間と温度、保管SOC(満充電に近いほど)で劣化が進む「カレンダー劣化」が支配的です。
高温放置や常時満充電に近い保管は特に不利。
– 根拠 NRELや車載Li-ion研究、メーカー技術資料で、サイクル劣化と同等かそれ以上にカレンダー劣化が大きいこと、温度・SOC依存(アレニウス則的挙動)が示されています。
タイヤ
– 起きやすい症状 ひび割れ(クラック)、硬化、フラットスポット(据え置き変形)、ベルト剥離リスク、ウェット性能低下。
– なぜ起きるか ゴムは酸素・オゾン・UV・熱で酸化劣化し、可塑剤が抜けて硬化。
動かさないとトレッドが一箇所で荷重を受け続け、平坦摩耗状の段差が発生します。
– 根拠 日本自動車タイヤ協会(JATMA)は使用開始から5年経過で点検、10年で交換目安を案内。
NHTSAや各タイヤメーカーも「残溝があっても年数で交換」を明示。
屋外放置・高温は劣化促進要因。
ブレーキ(ディスク・キャリパ・フルード)
– 起きやすい症状 ローター錆、パッド固着/引きずり、スライドピン渋り、駐車ブレーキ固着、ジャダー、制動力低下。
ブレーキフルードの吸湿でベーパーロックリスク。
– なぜ起きるか 走らないとローター表面の酸化膜が更新されず赤錆が進行。
フルード(DOT3/4)は強い吸湿性があり時間とともに水分が混入し沸点が低下。
キャリパピストンやピンのグリースも劣化・固着します。
– 根拠 ブレーキフルードは国際規格で“ドライ/ウェット沸点”が規定され、2年程度の時間基準交換が一般的に推奨。
屋外駐車や沿岸ではローター錆の発生が顕著という整備実務の知見が確立。
燃料系(ガソリン/ディーゼル)
– 起きやすい症状 始動性悪化、アイドリング不調、ノッキング、ポンプ唸りや固着、インジェクタ噴霧不良、ガム/ワニス堆積、タンク内腐食。
– なぜ起きるか ガソリンは数カ月で酸化・重合してガム質化、エタノール混合燃料は吸湿により相分離が発生。
タンク内結露による水混入も起きやすい。
ディーゼルは水分が混入すると微生物(通称ディーゼルバグ)が繁殖しスラッジ化。
– 根拠 燃料の保存性に関する石油業界資料・EPA/DOEガイダンスで「ガソリンの実用寿命は数カ月」程度が一般論。
相分離やガム形成は燃料系故障の主要因として整備現場で多数報告。
エンジン内部・潤滑系
– 起きやすい症状 冷間時の摩耗増大、スラッジ・酸化、油路詰まり、PCV詰まり、ブローバイ増加、オイル劣化による油膜低下。
– なぜ起きるか 短距離・低負荷の「チョイ乗り」は油温が十分上がらず、燃料希釈と水分がオイルに混入して蒸発しないため酸化・スラッジが進行。
冷間始動は境界潤滑で摩耗が集中します。
たまにしか動かさないとシール・Oリングが乾き漏れやすくもなります。
– 根拠 エンジン摩耗の多くが始動〜暖機までに集中するという潤滑工学研究やメーカー技術解説は多数。
多くのメーカーが「距離にかかわらず年1回のオイル交換」を指定。
排気系・触媒/DPF(ディーゼル)
– 起きやすい症状 排気管内面の水分滞留→内側からの腐食、触媒が所定温度に達せず活性低下、ディーゼルDPF再生不全による目詰まり警告。
– なぜ起きるか 短距離だと排気温が上がらず、結露水が蒸発しない。
DPF再生に必要な温度・時間に達しない運用が続くと、堆積スートが増大。
– 根拠 DPFの再生条件は各メーカー整備書で時間・温度条件が定義。
短距離・低速中心の使い方が目詰まり要因であることはユーザーマニュアルにも注意喚起あり。
ゴム・樹脂・シール類
– 起きやすい症状 ホース硬化/ひび、Oリング弾性低下、オイルシール滲み、ワイパーゴム劣化、ベルト(補機/タイミング)亀裂。
– なぜ起きるか ゴムの酸化・オゾン劣化・紫外線劣化・熱老化は「時間」で進行。
動かさないことで接触面が固着したり、グリースが偏在することも。
– 根拠 材料工学として確立。
タイミングベルトは多くの車種が「距離または年数」の交換規定(例 10万kmもしくは7年等)を明記。
冷却系(LLC/ウォーターポンプ/ラジエーター)
– 起きやすい症状 防錆・防食添加剤の枯渇による腐食、電食、ウォーターポンプシール漏れ、ホース膨潤/硬化。
– なぜ起きるか LLCの添加剤は走行距離よりも時間で劣化。
稼働が少ないとシール面が潤滑更新されず乾き、漏れに発展しやすい。
– 根拠 LLCにはIAT/OAT/HOATなど種類ごとの時間基準交換目安が設定され、メーカー整備書で「年数管理」が規定。
エアコン(A/C)
– 起きやすい症状 冷えが弱い、ガス圧低下、シャフトシールからの微漏れ、エキスパンションバルブ固着、カビ臭。
– なぜ起きるか 稼働が少ないとコンプレッサーシールに潤滑油が行き渡らず乾燥。
配管内の湿度変化で腐食・詰まり。
蒸発器に湿気が残ると微生物繁殖。
– 根拠 各メーカーが「月に一度はA/Cを作動させる」ことを推奨する整備指針。
整備現場でも低使用でのシール微漏れは典型例。
サスペンション・ステアリング
– 起きやすい症状 ブッシュ硬化・ひび、ショックアブソーバのシール滲み、スタビリンクブーツ割れ、アライメントずれ感。
– なぜ起きるか ブッシュのゴム老化は時間依存。
車重で同じ姿勢が続くことで“据え置きクセ”が出る場合も。
– 根拠 ブッシュ材の時間劣化は材料特性として一般的。
ショックはシール・オイルの経年変質が発生。
トランスミッション/デファレンシャル
– 起きやすい症状 シールからのにじみ、AT/CVTのソレノイド粘着、変速ショック増大、オイルの酸化・水分混入。
– なぜ起きるか オイルは使用しなくても酸化・添加剤劣化が進行。
短距離で水分が蒸発せず乳化することも。
長期放置は可動バルブのスティッキング要因。
– 根拠 ATF/CVTフルードは“シビアコンディション”に時間基準の交換を設けるメーカーが多い。
整備実務でも低走行年式車でのソレノイド固着例は散見。
ボディ・下回り・電装
– 起きやすい症状 下回り錆(とくに海沿い/融雪剤地域)、排水不良での水溜まり、ハーネス・コネクタの接触不良、リレー接点酸化、内装ベタつき、クリア塗装劣化。
鼠などによる配線被害も。
– なぜ起きるか 屋外での温湿度サイクルが結露を生み、金属・端子の腐食を促進。
動かさないと水切れが悪く、泥や塩が残留。
樹脂は可塑剤揮発でベタつき・割れが進行。
– 根拠 防錆・腐食は環境暴露時間で進むのが基本。
自動車用電装品は防水設計でも端子接点の酸化は不可避で、接触抵抗増大は低使用車での典型トラブル。
低走行特有の使い方が生むリスク(チョイ乗りの影響)
– 冷間始動回数が多いと、エンジン・触媒・ATFが適温に至らず、摩耗・煤堆積・燃費悪化が進行。
– ブレーキは軽い使用では錆が落ちきらず、面が整わないまま固着傾向に。
– オルタネータの充電時間不足でバッテリーは常に過放電気味に。
– ディーゼルのDPFやガソリン直噴のインテーク周り(EGR/PCV)にデポジットが蓄積。
保管環境の影響
– 屋外直射日光・高温 タイヤ、内装、塗装、ゴム全般の酸化・UV劣化加速。
– 湿潤/寒暖差 タンク・排気系・端子の結露腐食。
ブレーキや下回りの錆促進。
– 沿岸/融雪剤 塩害による下回り・ブレーキパイプ・サブフレームの重度腐食。
洗浄不足で進行。
時間基準でのメンテナンス(推奨目安の考え方)
– エンジンオイル/フィルタ 年1回(短距離主体なら粘度・規格を厳守、早めを推奨)。
– ブレーキフルード 2年ごと。
ローター・キャリパ清掃と摺動部グリースアップ。
– LLC(冷却液) メーカー指定の年数(OATなら5年/以降延長、IATなら2年目安など)。
– タイヤ 5年で専門点検、製造10年で交換目安。
保管時は空気圧高め、定期的に車両を動かして据え置き防止。
– 12Vバッテリー 3〜5年が目安。
低使用ならスマートチャージャー(メンテナ充電器)併用。
– ATF/CVTフルード/デフオイル メーカーの時間基準があれば従う。
短距離多用・年数経過が長い場合は早め交換を検討。
– 燃料 長期放置前は満タン(結露抑制)+スタビライザー添加、数カ月毎に新燃料を補給。
ディーゼルは水抜き管理。
– A/C 月1回以上、10分程度作動(除湿兼ねて冬も推奨)。
– ゴム・ベルト/ホース 亀裂・硬化・にじみの点検、年数規定のあるタイミングベルトは厳守。
– 下回り 年1回以上の防錆塗布や高圧洗浄(塩害地域は頻度増)。
低走行車を購入する際のチェックポイント
– タイヤの製造年週(DOT/JATMAコード)とひび/硬化、偏摩耗。
– 12Vバッテリーの製造年月・無負荷電圧・CCAテスト。
– ブレーキローターの錆状態、引きずりの有無、駐車ブレーキの戻り。
– オイル・LLC・ブレーキフルードの交換履歴(距離でなく年数で実施されているか)。
– 燃料系の匂い(古いガソリン臭)、始動性、アイドル安定性。
– 下回り・ブレーキ配管・サブフレーム錆、排気系の腐食。
– A/Cの効き・配管のオイル滲み。
– OBD2のモニタ状態(準備完了か)。
最近コード消しで不調を隠していないか。
– 走行テストでの変速フィール、異音、ハンドルセンター、フラットスポットの振動。
なぜ「低走行でも劣化する」のか(総論の根拠)
– 材料は距離ではなく時間・環境で劣化する ゴム・樹脂は酸化・紫外線・熱・オゾンで化学的に劣化、金属は湿気・塩で腐食。
これは材料科学の基本。
– 流体(油脂・冷却液・ブレーキフルード)は添加剤が時間とともに枯渇・分解し、吸湿・酸化・粘度変化が起きる。
規格上も「ウェット特性」や酸化安定性が評価項目。
– 電池は“使わなくても”劣化する 鉛もリチウムもカレンダー劣化が存在し、温度・SOCの影響が大きい。
– 機械は適切に動かしてこそ健全 可動部は摺動で潤滑膜が更新され、錆や固着が防がれる。
長期停止は逆に固着・偏摩耗・シール乾きのリスク。
低走行オーナー向けの実践的対策
– 月1〜2回、20〜40分程度は走る。
なるべく油温・水温が十分上がる走り(郊外路や短時間の高速)を混ぜる。
– 短距離の連続は避け、用事をまとめて「一度で長めに」運転。
– 屋内保管やボディカバー、下回り洗浄・防錆で環境劣化を抑える。
– バッテリーメンテナ充電器の使用。
EV/PHVは保管SOCを中間(例 40〜60%)にし高温放置を避ける。
– 駐車ブレーキは長期保管でかけっぱなしにしない(輪止め併用)。
タイヤは空気圧高めにし、時々車両を少し動かして据え置き回避。
– 燃料は新鮮さを保つ。
長期保管前は満タン+スタビライザー、再始動前に新燃料で希釈。
– メンテは「距離」より「時間」を優先。
年数基準を必ず守る。
まとめ
低走行は摩耗の少なさという利点がある一方、「時間」「環境」「使い方」に起因する劣化はむしろ顕在化しやすくなります。
特にバッテリー、タイヤ、ブレーキ、燃料系、ゴム・シール類、A/C、冷却系は距離に無関係にリスクが高い領域です。
根拠は材料劣化の普遍的原理、各種規格・メーカーの時間基準メンテナンス、燃料・電池のカレンダー劣化に関する技術知見に裏付けられています。
低走行車の価値を長く保つには、「月に数回しっかり動かす」「屋内保管など環境を整える」「時間でメンテする」という三本柱が最も費用対効果の高い対策です。
低走行車の真偽を見極めるにはどんなチェックをすればいいのか?
以下は、中古車の「低走行(走行距離が少ない)」という売り文句が本当かどうかを見極めるための、実務的で再現性の高いチェックリストと、その根拠です。
結論から言うと、1つの要素だけで断定せず、記録(紙・電子)と実車の摩耗の整合性を多面的に検証し、矛盾がないかを探すのが最も確実です。
低走行は魅力的ですが、放置や短距離ばかりの使用は別種の劣化を招くため、「低走行=無条件で良車」ではありません。
その見極めポイントも併せて示します。
書類と公的・準公的記録のチェック(最優先)
– 点検整備記録簿(メンテナンスノート)
年月日と走行距離の記載が整合しているかを逐一確認。
オイル交換、定期点検、車検時の押印・サイン・走行距離が時系列で自然につながるか。
飛び(急減・大幅増)や、筆跡・インクが同日で不自然にまとまる場合は要注意。
根拠 整備工場は法定点検時に走行距離を記録する慣行があり、整備履歴は長期にわたる走行距離の連続性を裏づけます。
車検関連の記録
継続検査や各種申請で走行距離が記載・保管される運用があり、販売店の管理システムや過去車検の控えで参照できることが多い。
車検シールや記録が2年ごとに並ぶのに、走行距離がほとんど変化しない等は、用途(週末のみ、セカンドカー)と整合するか聞き取りで裏取りを。
根拠 車検や定期点検の場では「当時のメーター表示値」が記録・転記されやすく、時系列照合に向いています。
第三者鑑定・管理システム
中古車オークション検査票(AIS等)、Goo鑑定・カーセンサー認定、業界の走行距離管理システムの照会結果(販売店が加入している場合)を提示してもらう。
輸入車や並行車はCarfax/AutoCheck、国内再登録の輸入車は輸送・通関・予備検の書類で距離整合を確認。
根拠 第三者機関はメーター改ざん・交換歴の痕跡に関する統一基準を持ち、基礎資料として信頼度が高い。
メーター交換歴の有無と証跡
交換があれば、交換時の距離・日付・作業伝票を必ず確認。
メーター交換後の「合算実走行」が一貫して記録されているか。
書類がなければ「実走行不明」扱いが妥当。
根拠 電子メーター交換で距離がリセットされるケースがあり、メーカー・ディーラーは交換時に補正ラベルや記録を残す運用がある。
電子的診断(スキャンツール)での裏取り
– ECU/TCU/ABSなどに保存された走行関連データ
車種によっては、メーターとは別領域に累積走行距離、エンジン稼働時間(engine hours)、走行時間、メンテナンスインターバル履歴が残っています。
これらをOBDスキャナで読み出し、メーター値と整合するか確認。
大きな乖離は改ざんの疑い。
根拠 多くのECUは内部ロジックで走行距離や稼働時間を管理し、外部からの書換えが難しい領域を持つことが多い。
エンジン稼働時間からの平均速度推定
平均速度=積算距離÷エンジン稼働時間。
極端に低い(例 5~10km/h以下)場合、アイドリング主体や短距離のみの可能性。
極端に高い場合は高速主体。
表示距離と使用実態の整合性を考える材料に。
根拠 利用パターンは摩耗の出方を左右し、内外装の状態と平均速度はある程度相関します。
故障コード・イベントログのタイムスタンプ
一部車種はDTC記録に当時の走行距離や時間を持つため、過去のエラー発生日の距離との連続性を確認可能。
根拠 ECUログは実運用から自動生成され、人為的に一貫性を保って改ざんするのは困難。
実車の摩耗・経年の整合性チェック(視覚・触覚)
– 触れる部位の摩耗
ステアリング(テカリ、縫い目の毛羽)、シフトノブ、ペダルゴム(縁の削れ)、運転席シート座面・サイドサポートの潰れ、シートベルトの毛羽立ち・戻りの勢い。
5万~10万km相当の「手触り」は隠しにくい。
ペダルゴム・シフトブーツが新品だけ不自然に新しい場合は「隠れ補修」を疑う。
根拠 手足が触れる部位は距離に比例して摩耗が蓄積しやすく、交換履歴がなければ距離の実相を反映しやすい。
フロアマット・内張・スイッチのテカリ
マットの踏み跡の沈み、ウインカーレバーや窓スイッチの印字剥がれ、ナビや空調パネルのボタン光沢。
低走行で一様に新しいのが自然。
根拠 接触回数は走行距離と概ね相関。
外装の飛び石・砂噛み
フロントバンパーやボンネット先端、Aピラー、サイドミラーの飛び石痕。
高速主体の高走行は砂粒状の点傷が増える。
フロントガラスの「砂噛み(微細な曇り)」も指標。
根拠 高速走行時間が長いほど前面の微細損傷が増える。
ブレーキディスクの摩耗段差とサビ
低走行・屋内保管ならディスク外周の段差は少なめ。
長期放置は当たり面に赤サビ・斑点腐食が出やすい。
距離の割に段差が大きい場合は高走行、距離が少ないのに腐食が強ければ「走っていない時間が長い」サイン。
根拠 使用と放置の双方がブレーキ表面に痕跡を残す。
タイヤの製造年週と摩耗
サイドウォールの製造年週(例 2921=2021年29週)。
低走行・初期タイヤが残っていれば年式と合致するはず。
距離が少ないのに2~3回も交換されている場合は不自然。
溝残量と偏摩耗(内減り・片減り)も走行とアライメント状態を示唆。
根拠 低走行で適正空気圧なら極端な偏摩耗は出にくい。
年週と摩耗度の整合が鍵。
エンジンルームと下回り
純正ステッカーやラベルの劣化度、オイルにじみ、エンジンマウントの潰れ、アンダーカバーの擦り傷。
低走行であれば全体に「使い込んだ艶」より「新しさ」が勝ちやすい。
根拠 熱サイクルと振動回数は距離と時間に比例して蓄積する。
室内の匂い・電装の劣化
長期放置はカビ臭、ベタつき、液晶の焼け・ドット抜けなどが出やすい。
低走行でも放置劣化がある場合の典型サイン。
根拠 距離ではなく時間依存の劣化特性。
ステッカー・ラベル・定期交換部品からの推定
– オイル交換ステッカー、タイミングベルト(またはウォーターポンプ)交換ラベル、ATF交換記録、バッテリー交換日付。
記録簿と相互に矛盾がないか。
根拠 街工場は窓枠やエンジンルームに次回交換目安を書き残す慣行があり、時系列整合の材料になる。
シートベルトの製造ラベル
車両年式と合致していればオリジナルの可能性が高い。
内装の一部が年式と合わない場合は事故・交換歴の示唆(距離そのものではないが、全体の整合性判断に役立つ)。
根拠 シートベルトは安全部位で年式刻印がある。
試乗での感触
– ドライブトレインのガタ、ハブベアリングやブッシュのコトコト音、足回りのへたり感。
低走行なら全体にタイトで静粛。
直進安定性・ハンドルセンターの出方、ブレーキのジャダーの有無も確認。
根拠 可動部品のクリアランス変化は走行距離に比例して進む傾向がある。
低走行特有の「負のサイン」
アイドリング不安定(カーボン堆積)、ブレーキ固着気味、タイヤのフラットスポット、燃料劣化臭。
距離が少なくても「動かさなかった時間」が長いと出る症状。
根拠 機械は適度に動かすことで健全さを保つ。
放置は別の劣化を招く。
セラーへのヒアリングとロジックチェック
– 使用実態 通勤か週末のみか、保管環境(屋内/屋外)、前オーナー数。
低走行の理由を具体的に語れるか(単身赴任で不在、ガレージ保管の趣味車など)。
– 鍵の数・取説・保証書の有無、純正パーツの保管状況。
大切に保管されていた個体は付帯物が揃っていることが多い。
– 価格の妥当性 相場から乖離した「格安低走行」はリスクが高い。
鑑定書や記録の厚みが価格差の根拠になっているか。
根拠 合理的な説明と資料の厚みが整合する案件ほどリスクは低い。
EV・HV(電動車)特有の確認
– バッテリー健全性(SOH)、急速充電回数、セルバランス。
低走行でも急速充電過多だと劣化が早い車種がある。
サービスモードやメーカー診断で確認。
根拠 電池は「走行距離」より「時間・温度・充電履歴」に強く依存。
回生・機械ブレーキのバランス
低走行+放置で機械ブレーキが錆びやすい。
試乗で当たりの悪さや鳴きがないか。
根拠 回生優先の車はローターが錆びやすい。
赤旗(要警戒シグナル)
– 記録簿や整備伝票を見せたがらない、コピーを拒む。
– 「実走行」と言いつつ、メーター交換歴の証憑がない。
– 内装の使用感と表示距離が明らかに不一致(例 2万km台なのにステアリングとシートが顕著に摩耗)。
– 近年の車なのに第三者鑑定が付かない、または鑑定コメントに「走行不明」。
– OBDスキャンの数値とメーターが合わない(ECU上の距離が多い)。
根拠 走行距離詐称の典型パターンに合致。
プロに任せるべき工程
– 第三者の購入前点検(ディーラーまたは認証工場)で下回り・電装・ECUデータを精査。
– オークション出品歴の照会(販売店経由)。
検査票の「評価点」「内外装評価」「機関評価」「距離」欄を確認。
– 板金塗装の膜厚計測で修復歴の有無も併せて把握(距離そのものではないが、総合判断の質が上がる)。
根拠 利害のない第三者のレポートはバイアスが少ない。
低走行の価値と「付き合い方」
– 長期放置が長かった低走行車は、納車直後に予防整備(油脂類・冷却水・ブレーキフルード・バッテリー・タイヤ)を行う前提で検討。
短距離・始動停止の繰り返し個体はスロットルやEGR、インジェクタに汚れがち。
– 「年式が新しい×低走行×記録厚い×屋内保管」の4点が揃う個体はプレミアムを支払う価値あり。
一方で「年式が古い×極低走行」は放置劣化コストを価格に織り込む。
根拠 走行距離だけではコンディションは語れず、総所有コストは「距離×経年×使用環境」の関数。
まとめの進め方(おすすめ手順)
– 事前準備 販売店に記録簿・鑑定書・オークション検査票の有無を確認。
メーター交換歴の有無も口頭で聞く。
– 現車確認 上記の内外装摩耗ポイントとラベル類をチェック。
写真とメモを残す。
– 診断 可能ならOBDスキャンでECU側の距離・時間を読み出し、記録と突合。
試乗で機関・足回りの感触を確認。
– クロスチェック 日付・距離・価格・使用実態の説明に矛盾がないか再整理。
気になる点は第三者点検へ。
– 契約 走行距離に関する契約文言(実走行である旨、虚偽時の対応)を明記し、控えを保管。
これらのチェックは、それぞれ単体でも意味がありますが、最大の根拠は「複数の独立した情報の整合性」です。
紙の記録、ECUのデータ、物理的な摩耗、売り手の説明、第三者鑑定が互いに矛盾しなければ、低走行の信頼度は高いと判断できます。
逆に、どれか1点でも強い矛盾が出る場合は、距離詐称や長期放置といったリスクを前提に、価格や整備計画を見直すのが賢明です。
低走行車の相場やリセールバリューはどのように判断すべきか?
低走行車の相場やリセールバリュー(再販価値)をどう判断すべきかは、単に「距離が短い=高い」という単線的な話ではありません。
年式・車種の人気・状態・グレード・装備・色・市場の需給・販売チャネルなど、複数要因の掛け算で決まります。
そのうえで「走行距離」が効いてくるのはどの局面か、どの程度のプレミアム(上乗せ価値)がつくのか、どこから効きが鈍るのかを理解しておくと、相場を外しにくくなります。
以下、判断の枠組みと根拠、実務的な目安を体系的に解説します。
低走行の定義と平均距離の目安
– 日本の乗用車の年間平均走行距離は概ね8,000〜9,000km前後(軽自動車は6,000〜8,000km程度、商用はもっと長い)とされます。
これを基準に「年式相応の距離」かを見ます。
– 低走行の目安(私案)
– 1〜3年落ち 年8,000km基準で累計2.5万km以下は低走行、1万km未満は極低。
– 4〜6年落ち 累計3万〜4万kmが低走行、2万km未満は極低。
– 7〜10年落ち 累計5万km以下で低走行、3万km未満で極低。
– 10年以上 走行距離よりも保管・整備状態の比重が上がるが、5万km未満なら希少。
– 重要なのは「年式と距離のバランス」。
例えば10年落ちで2万kmは距離だけ見れば魅力的ですが、ゴム類やシール、タイヤ・バッテリー等の経年劣化が無視できず、距離プレミアムが薄まることがあります。
相場のでき方(価格形成の仕組み)
– 実勢相場のコアは業者オートオークション(USS/TAA/CAA等)の落札価格帯に集約されます。
小売価格はそこに輸送・整備・保証・在庫コスト・マージンが乗ります。
– 同一条件なら「新しい・距離が短い・状態が良い・人気グレード/色」が高値。
特にトヨタ/レクサス、人気SUV・ミニバン、軽の人気車、耐久に定評のあるモデルは残価が高い傾向。
– 心理的な閾値が存在します。
5万km、7万km、10万km、初度登録からの5年・7年・10年などで価格が段階的に動きやすい。
走行距離が価格に与える効き方(プレミアムの目安)
– 一般論(年式相応の範囲内)
– 平均距離に対し1万km少ないごとに、同年式・同条件比で約1〜3%の上乗せ(または多い場合は減額)として評価されることが多い。
効きは車種・年式・相場の地合いで変動。
– 効きが強いのは「新しめ×人気車種×保証残あり」。
逆に古くなるほど距離差の効きは相対的に弱まる。
– 低走行プレミアムの典型
– 3年落ち・平均2.5万kmのところ、1万kmなら+5〜12%程度のレンジで評価されやすい。
– 5年落ち・平均4万〜5万kmのところ、2万kmなら+8〜15%。
– 10年落ちで5万km vs 8万kmの差は+5%前後に収れんしやすいが、人気・状態で逆転もあり得る。
– 極低走行(未使用車に近い水準)
– 登録済み未使用車や数千kmの個体は、新車供給や新車値引き状況に強く連動。
新車納期が長い時期はプレミアムが肥大(+10〜30%)し、正常化すると収縮する。
– セグメント差
– スポーツ/コレクター性のある車 距離の効きが強く、1万km単位で数十万円動くことも。
– 大衆セダン/コンパクト 距離差の効きは中庸、状態や装備・安全機能の差で覆る。
– 軽/ミニバン/SUV 需要が厚く、低走行の売れ足が速い。
冬前の4WD、春のオープン等、季節性も。
低走行のメリットと落とし穴
– メリット
– 機械的摩耗が少なく、内外装も綺麗である可能性が高い。
残寿命の見通しが立てやすい。
– 将来売却時の残価が比較的高くなりやすい(次の買い手にも「低走行」の訴求が効くため)。
– 落とし穴(根拠 経年劣化メカニズム)
– サビ・結露・シール類の固着、ゴム類の硬化、燃料・オイルの劣化、ブレーキ固着、タイヤのひび。
特に短距離・低頻度の乗り方は水分が抜けず劣化を招く。
– 屋外放置での紫外線劣化、下回りの腐食。
距離より保管環境がモノを言う。
– メンテ履歴が薄い「乗らない×整備しない」の個体は、低走行でも整備前提のコストが必要。
実務的なチェックポイント(相場判断の根拠固め)
– 年式と距離の整合性 車検記録簿、点検ステッカー、納品書、オークション評価書の走行管理照合。
メーター不正を排除。
– 整備履歴 年次点検・オイル交換周期・消耗品交換記録。
距離が少なくても年数で交換されているか。
– 保管環境 屋内/屋外、海沿い、高温多湿地域。
下回り錆の有無。
– 使用状況 短距離メインか、長距離巡航か。
短距離のみは煤・水分起因の不調リスク。
– タイヤ年式・状態、ブレーキ・バッテリーSOH、ゴム/樹脂劣化の目視。
– 事故・修復歴の有無。
修復歴の影響は走行距離よりも価格に強く効く場合が多い。
価格の簡易モデル(考え方の骨組み)
– 中古車価格 ≒ ベース価格(年式×車種×グレード×市場) × 走行距離係数 × 状態係数 × 装備/色係数 × 季節/地域係数 ± 修復歴・事故歴調整 ± 車検残・保証残
– 距離係数の例(年式相応距離Kmavgに対しKm実走行)
– 係数 ≒ exp[−k × (Km実−Kmavg)/10,000]、kは0.02〜0.06程度のレンジで車種依存。
– 実務では段階式(5万/7万/10万kmでスパッと値が変わる)と連続式の折衷で運用されることが多い。
リセールバリューを高める行動
– 買う時
– 人気グレード/色/駆動方式を選ぶ。
オプションは再販で評価されやすいもの(先進安全装備、純正ナビ、サンルーフ、レザーなど)を重視。
過剰なカスタムは避ける。
– 年式が新しく距離が短い個体でも、整備履歴と保管環境の質を妥協しない。
– 乗っている間
– メンテ記録を体系的に残す(領収書含む)。
年数基準の交換も丁寧に。
– 定期的に長めの走行で水分飛ばし。
屋根下保管・洗車/下回り防錆。
– 走行距離の伸ばし方は急増を避け、10万kmの心理的閾値を意識。
– 売る時
– 大きな整備前に売る(タイミングベルト/バッテリー/タイヤ総替え前など)。
車検を通すか否かは残期間と相場次第。
– 季節と需給を読む(SUV/4WDは冬前、オープンは春)。
新型発表直前は旧型相場が緩みやすい。
– チャネル選び 下取りは手早いが安め、買取店一括査定や委託/個人売買は高くなりやすいが手間。
低走行・人気車は競合入札が効きやすい。
目安となる数値例(あくまで一般的レンジ)
– 例1 5年落ちコンパクト、平均5万km、相場130万円
– 2万kmの低走行なら+8〜15%で約140〜150万円レンジ。
– 8万kmなら−8〜15%で約110〜120万円レンジ。
– 例2 3年落ちミニバン、平均2.5万km、相場300万円
– 5千kmなら+10〜18%で330〜355万円。
– 6万kmなら−10〜18%で245〜270万円。
– 例3 10年落ちSUV、平均8万km、相場160万円
– 5万kmなら+3〜8%で165〜175万円。
状態が良ければもう一声。
– 12万kmは−8〜15%で135〜150万円。
10万km超の閾値をまたぐと下げ幅が拡大。
なぜそのように判断できるのか(根拠の整理)
– 経済合理性 走行距離は機械摩耗と残寿命の代理変数。
買い手は将来の故障リスク・維持コストを価格に織り込むため、距離が短いほど高く評価されやすい。
– 市場観察 業者オークションの落札データでは同条件で低走行が安定して高値。
ただし新車供給・金利・季節・為替でプレミアムの幅が変動する。
– 閏値効果 保証(5年/10万km等)や整備費イベント(タイミングベルト等)、心理的節目(5万/10万km)で需給が非連続に動く実務上の現象。
– 経年劣化の科学 ゴム・樹脂・流体の時間依存劣化、短距離走行の水分蓄積、放置による腐食促進など、距離が少ないほど無条件に良いとは言えない物理的根拠。
実際に相場を読むための手順
– 同一条件の横比較を徹底(年式・グレード・色・装備・修復歴・保証・車検残)。
ポータルの成約相場やオークション相場参照。
– 年式相応距離との差分を把握し、上記のプレミアム/ディスカウントレンジを当てはめる。
– 現車確認で状態係数を補正(内外装、下回り錆、消耗品、タイヤ年式、異音/振動、OBDスキャン)。
– 市場の地合い(新車納期、季節、為替、金利)を加味し、売買タイミングを調整。
まとめ
– 低走行は一般に相場上のプラス材料だが、「年式と距離のバランス」「状態」「人気・装備」「市場環境」の方が上書きすることもある。
– プレミアムの効きは新しいほど強く、古いほど緩やか。
心理的閾値(5万/7万/10万km、5年/7年/10年)で段差が生じやすい。
– 低走行の価値を最大化するには、良質な整備記録と保管環境の証明、売却タイミングとチャネル選定が鍵。
– 相場判断は最終的に「同条件の横比較×現車の状態補正」で行う。
距離は強い説明変数だが、唯一の正解ではないことを忘れないでください。
この枠組みを使えば、低走行車の相場・リセールを過大評価も過小評価もせず、現実的な価格帯を見極めやすくなります。
必要であれば、具体の候補車(年式・グレード・距離・地域)を挙げていただければ、より踏み込んだ相場レンジの仮試算もお手伝いします。
【要約】
低走行に公的定義はなく文脈次第。実務では総走行と年式補正で判断し、〜1万km極低、〜3万km低、〜5万km比較的少、10万kmが節目。平均は年8,000〜1万kmで、年6,000〜7,000km以下なら低走行。車種・用途で基準は揺れる。低走行でも年式劣化や使用環境に注意、記録類の確認も重要。スポーツやコレクター車は低走行にプレミア、商用は基準が高め。10万km超で過走行とされることも。