修復歴・事故歴とは具体的に何を指すのか?
以下は、日本の中古車取引の実務で使われる「修復歴」と「事故歴」という用語の意味と、その根拠(出典・基準)を整理した解説です。
結論から言うと、「修復歴」は業界で比較的明確に定義された“骨格(フレーム)に及ぶダメージを修理・交換した履歴”を指し、広告表示でも開示が求められる重要事項です。
一方、「事故歴」は法律上・業界基準上の厳密な定義が定まっていない“事故関与の履歴一般”を指すことが多く、販売現場によって使い方に幅があります。
そのため、中古車選びでは「修復歴の有無」を確認するのが基本軸になります。
修復歴とは何か(実務上の定義)
– 中古車業界で言う「修復歴車」とは、車体の骨格(ボディの構造部材)に損傷が生じ、その部位を交換・切継ぎ・修正(溶接・引き出し・鈑金等)した履歴がある車を指します。
損傷の原因が交通事故であっても、落下物・輸送中の損傷・自然災害・いたずらであっても、骨格部位に及び、その部位を修復していれば「修復歴」に該当します(原因は問いません)。
– ここでいう骨格部位とは、車の走行安全性・直進性・衝突安全性などに直接影響しうる構造体です。
代表的には次のような箇所が含まれます(車種や基準により呼称・細目は異なります)。
– フレーム(サイドメンバー)、クロスメンバー
– インサイドパネル(フロント/リア)
– ピラー(A/B/C等)
– ダッシュパネル(バルクヘッド)
– ルーフパネル/ルーフサイドレール
– フロアパネル(キャビン/ラゲッジ)、トランクフロア
– ラジエータコアサポート(溶接固定型)
– サスペンション取付部・メンバー取付部 等
– 修復歴に含まれない例(典型)
– ボルトオンで着脱できる外板の交換・修理(フロントバンパー、リヤバンパー、ボンネット、フェンダー、ドア、バックドア等)のみで、骨格部位に及んでいないもの。
– コアサポートのうち、車種によってはボルト留めで交換可能なもののみを交換した場合(溶接固定型は含まれるのが通例)。
– いわゆる軽微板金(外板の浅い凹み・擦り傷修理)で骨格に修正が及んでいないもの。
– 境界事例(判断が分かれやすいポイント)
– リアバンパーの内側にあるバックパネルやフロア後端の切継ぎ・溶接があれば、外観がきれいでも修復歴に該当します。
– ピラー根元やサスペンション取付部の歪みをフレーム修正機で引き出している場合は修復歴になるのが通例です。
– エアバッグ展開歴は、それ自体は修復歴の要件ではありませんが、展開に至る衝撃が骨格に及んで修復されていれば修復歴に該当し得ます。
事故歴とは何か(用語の実態)
– 「事故歴」は法律や統一業界基準で厳密に定義された用語ではありません。
一般には「交通事故等に関与し損傷を受けた履歴」全般を指しますが、販売店によって「修復歴あり」と同義で使う場合もあれば、骨格に至らない軽微な事故(バンパー交換など)も含めて「事故歴あり」と表現する場合もあります。
– そのため、広告や口頭説明で「事故歴なし」という表示があっても、業者が「修復歴なし」の意味で使っているだけで、軽微なパネル交換歴はある、といったケースがありえます。
確認時は「修復歴の有無」と「骨格に及ぶ修理の有無」を明確に尋ねるのが肝要です。
なぜ修復歴が重視されるのか
– 骨格部位は衝突エネルギーの吸収・変形挙動、サスペンションのジオメトリ保持、車体剛性に深く関わります。
ここに損傷・修復があると、走行安定性や直進性、タイヤ摩耗、将来の耐久性、再度の衝突時の保護性能へ影響するリスクが相対的に高くなります。
– こうした安全性・価値への影響が大きいため、業界は骨格修復の有無(修復歴の有無)を第一に告知する慣行を築いています。
根拠(制度・基準)
– 自動車公正競争規約・同施行規則(所管 公正取引委員会、運用 自動車公正取引協議会)
– 中古自動車の表示に関するルールを定め、虚偽・誇大広告を防止するための業界の「公正競争規約」です。
– この中で、中古車広告における必須表示事項として「修復歴の有無」が定められており、修復歴車の定義は“車体の骨格等に損傷があり、当該部位を修理または交換したもの”と解される運用が広く定着しています。
– 規約に反する不当表示は、景品表示法の観点からも問題となり、是正指導・措置の対象となります。
– 日本自動車査定協会(JAAI)の「中古自動車査定基準」
– 査定士が用いる実務基準で、修復歴の判定方法と骨格部位の範囲、評価減点の考え方が体系化されています。
– 基準では、骨格部位の交換・切継ぎ・修正(引き出し、溶接、板金等)の有無を確認し、1箇所でも該当すれば「修復歴車」と判定する実務が示されています。
– オークション・評価機関の基準(AIS、JAAA など)
– 大手オートオークションや第三者評価機関もほぼ同趣旨の「修復歴基準」を採用しており、出品票・評価書に修復歴の有無を明記します。
骨格部位の範囲やラジエータサポートの扱いなど、機関ごとに細部の運用差はあるものの、骨格修復=修復歴という大枠は共通です。
– 監督法令の背景
– 景品表示法(不当表示の禁止)の趣旨に基づき、業界の公正競争規約が用語・表示方法を整備。
修復歴の未告知や「無事故車」と誤認させる表示は是正対象となり得ます。
– 民法上も重要事項不告知(契約不適合)に該当しうるため、売買後のトラブル・解除・損害賠償のリスクがあります。
実務での見分け方・確認方法(購入者向け)
– 書面で確認
– 車両品質評価書(第三者機関の評価書 AIS、JAAA、JAAI査定書など)を提示してもらう。
骨格部位の修復の有無・箇所と程度が図示されています。
– 過去の修理明細・見積書・保険修理記録があれば確認する(骨格部位名や“切継ぎ”“溶接”“修正機”などの記載が手掛かり)。
– 現車でのチェック(専門家推奨)
– 溶接跡・シーラーの不自然な剥がれや厚盛り、パネル合わせ目の段差・チリの不均一、塗膜厚の局所的な増加、フロアの波打ち、下回りの引き出し痕など。
– サスペンション取付部の歪み、アライメントの極端なズレや偏摩耗の兆候。
– 用語の確認
– 店舗で「事故歴なし」とだけ書いてある場合は、「修復歴の有無」「骨格部位の修理・交換の有無」「評価書の有無」を明確に質問する。
– 「修復歴の定義はどの基準に基づいていますか?」(JAAI基準、AIS基準、公取協ガイドライン等)と聞くと確認がスムーズです。
具体例で整理
– 例1 前後バンパー交換のみ(骨格無損傷)
– 事故歴 ありと表現される場合もある(軽微事故)
– 修復歴 なし(骨格に及ばないため)
– 例2 フロントインサイドパネルに歪み、溶接修理
– 事故歴 あり
– 修復歴 あり(骨格修復)
– 例3 ラジエータコアサポートをボルトオン交換(当該車種がボルト固定)
– 多くの基準で修復歴 なし(ただし周辺骨格への波及損傷があればあり)
– 例4 水害により室内フロア上まで浸水、配線・内装交換
– 事故歴 災害履歴あり等と扱われる
– 修復歴 骨格修復がなければ通常は「修復歴なし」。
ただし「冠水・浸水歴車」は別途の重要告知事項(評価書や告知書で明記されるのが通例)
購入・売却時の留意点
– 売る側は、修復歴(骨格部位の修理・交換)や冠水・焼損・メーター交換等の重要事項を正確に告知する義務があります。
隠蔽は規約違反・法令違反や契約不適合責任につながります。
– 買う側は、「修復歴の有無」と「第三者評価書の提示」を基本セットで確認。
曖昧な「事故歴なし」表示のみで判断しないことがトラブル防止になります。
まとめ
– 修復歴=骨格(フレーム等)に及ぶ損傷を修理・交換した履歴。
中古車広告の必須開示事項で、業界基準(自動車公正競争規約、JAAI査定基準、AIS/JAAA等)により運用が統一されています。
– 事故歴=事故関与の履歴一般を指す曖昧な用語で、店舗によって含める範囲が異なります。
軽微な板金・外板交換のみでも「事故歴あり」と呼ぶ場合がありますが、それは修復歴とは別次元です。
– 実務では「修復歴の有無」を基準に車両価値・安全性への影響を評価し、消費者はその定義と根拠(評価書・査定基準)に基づいて確認するのが安心です。
注記 各基準の細目(骨格部位の呼称やラジエータコアサポートの扱い等)には機関ごとに軽微な差異があります。
最終判断は、対象車種の構造と当該機関の最新版基準(自動車公正取引協議会の表示基準、JAAIの中古自動車査定基準、AIS/JAAAの評価基準など)をご参照ください。
修復歴の有無はどのように見分ければよいのか?
ご質問の「修復歴の有無はどう見分けるか」について、業界での定義、具体的な見分け方、第三者評価の活用、法・基準面の根拠まで、実用的なチェック手順に落として詳しく解説します。
結論から言うと、最も確実なのは「第三者の車両状態証明(評価書)」と「実車の骨格部位の確認」を組み合わせることです。
そのうえで、外観・下回り・室内・走行チェックの各段階で、修復歴を示すサインを系統立てて拾っていくのが有効です。
「修復歴」と「事故歴」の違い(前提)
– 修復歴とは
中古車業界では、日本自動車査定協会(JAAI)やAIS等の査定・検査基準で「車体の骨格部位(フレーム・ピラー・フロアなど)に損傷が生じ、修正・交換・溶接等の修復がなされた履歴」を指します。
ボルトオンの外装パーツ(バンパー、ボンネット、フェンダー、ドア等)の交換・板金塗装のみでは通常は“修復歴”には該当しません。
– 事故歴とは
一般的には事故に関与した経歴全般を指す広い概念で、外装の板金塗装やボルトオン部品交換のみの軽微な修理も含む場合があります。
定義が統一されていないため、売買現場では“修復歴”の有無が価値・安全性の判断基準として重視されます。
骨格部位(修復歴の判定に関わる主な箇所)
代表例だけでも以下が挙げられます。
ここに修正・交換・溶接跡などがあれば修復歴となる可能性が高いです。
– サイドメンバー、フロント/リアクロスメンバー、フロントインサイドパネル
– ピラー(A/B/C)、ダッシュパネル(カウル/バルクヘッド)
– ルーフパネル、ルーフサイドレール
– フロアパネル、トランクフロア、バックパネル
– サイドシル(ロッカーパネル)
– ストラットハウジング(サスペンション取付部)やサブフレーム
– ラジエータコアサポート(ボルト止めで脱着可能な車種は基準により扱いが分かれるが、骨格への影響があれば修復歴の対象)
これらはJAAIやAISの査定・検査基準、ならびに中古自動車の表示に関する公正競争規約の運用基準で骨格部位として整理・運用されている領域です。
実車での具体的な見分け方(段階別チェックリスト)
A. 書類・情報での事前確認
– 車両状態証明書や評価書の有無
AISやJAAIなど第三者機関の「車両状態証明(評価)」があるか確認。
評価書には修復歴の有無や修復箇所、塗装・板金の程度が明記されます。
オークション出品時の評価も参考になります(R/RA評価は修復歴ありが一般的)。
– 点検整備記録簿・修理明細
正規ディーラーや認証工場の整備記録簿、保険修理の見積・請求書等が残っていれば裏取り材料になります。
– 販売店の表示
自動車公正取引協議会の公正競争規約では、修復歴の有無など重要事項の表示が求められます。
広告・車両票・契約書で「修復歴あり/なし」を明確にさせましょう。
B. 外観(ボディ外板・チリ・塗装)
– パネルの建付けとチリ
ボンネット・フェンダー・ドア・トランクリッドの隙間幅が左右で不均等、段差がある、開閉時の引っ掛かりがある等は、事故修復の痕跡の可能性。
– 塗装の色味・肌の違い
光の角度を変えて見ると、再塗装部は「肌(オレンジピール)」が純正と異なったり、艶・メタリックの向きに違和感が出ます。
マスキング不良のオーバースプレー(ゴムモール・ガラス端部・樹脂部にザラついた塗料ミスト)も手掛かり。
– 塗膜厚の測定
塗膜計で80〜150μm程度が純正目安。
200μm超は再塗装、400〜800μm超はパテ厚の可能性が高い。
複数パネルで系統的に測ると、どの範囲が修理されたか推定しやすい。
アルミ/樹脂パネルは磁力式計測が効かない点に注意。
C. エンジンルーム・トランク内・開口部
– 溶接・シーラー・スポットの不自然さ
工場出荷時はスポット溶接の間隔が均一、シーラーのビードも一定で機械的。
修理後はビードが途切れる/厚薄が不均一、プラグ溶接跡が点在、切断・貼り替えの段差や研磨痕が見えることがあります。
– ボルト頭の工具傷・塗装剥がれ
フェンダー、ボンネットヒンジ、コアサポートの固定ボルトに工具痕、ワッシャ跡のズレがあれば脱着歴あり。
単なる脱着だけでは修復歴ではないが、周辺の骨格歪みと併せて判断。
– コアサポート・インサイドパネル・ストラットタワー
波打ち、シワ、塗装割れ、プレス跡の乱れ、シーラー切れ、補強板の追加などは前部衝突修理の典型サイン。
– トランクフロア・バックパネル
皺、ハンマー跡、シーラー打ち直し、スペアタイヤハウスの歪みは追突修理のサイン。
D. 下回り・足回り
– フロアパネル・サイドシルの波打ち
ジグ修正跡、床面の引っ張り痕、アンダーコートの塗り直しの境目は要注意。
– サブフレーム/クロスメンバー
交換痕(塗装の新旧差、ボルトの新品感、位置決め穴のズレなど)、曲がりや当たり痕があれば骨格修理の可能性。
– サスペンション取付部
ストラットハウジングの歪み、アライメント調整範囲を超える偏り、タイヤ片減り(内減り/外減り)も事故由来の歪みを示唆。
E. ガラス・ランプ・細部の整合性
– ガラスの製造コード
フロント/サイド/リアで製造年週のコードがバラバラ、特に一点だけ新しいと交換歴。
飛び石でも交換はあるため、他のサインと併せて判断。
– ランプ/ラジエータ・コンデンサー
片側だけ新品同等、ブラケットの割れ補修、後付けのネジ/リベット等は接触歴の兆候。
F. 室内・安全装置
– エアバッグ・シートベルト
ステアリング/ダッシュのエアバッグカバーの浮きや新旧差、シートベルトプリテンショナーの交換痕があればSRS作動歴の可能性。
診断機でSRS履歴やDTCを確認。
– ダッシュパネル周辺
取付クリップの欠落・新品混在、ビスの増し打ちなどはダッシュ脱着→前部修理の可能性。
G. 試乗・計測
– 直進性・ハンドルセンター・ブレーキング時の蛇行
アライメント不良や骨格歪みの典型症状。
路面勾配の影響を排して複数回確認。
– 異音・振動
旋回時の異音、段差でのギシギシ音、車体共振は修復部位の合わせ不良や補機の歪みの可能性。
– ホイールベース/対角寸法の簡易測定
左右ストラットトップ間、対角の測定で差がある場合は要精査。
正確にはフレーム修正機とボデー寸法図で測定。
H. 電子診断・プロ第三者検査
– OBD診断
SRS/ABS/ステアリング角度センサー/レーダー関連のDTCやキャリブレーション履歴から、事故修理後の調整痕跡が読み取れる場合あり。
– 第三者機関の現車検査
AIS/JAAI等の有資格検査員に依頼すると、骨格部位の修復有無を規格に沿って判定。
販売店に「第三者評価の提示」を求めるのが効率的。
よくある勘違い・例外
– ボルトオンのラジエータコアサポートやボルトオン部品交換のみは、骨格に影響が及んでいない限り“修復歴なし”と扱われることがある(評価基準により運用差あり)。
ただし「事故歴あり」と表現されることはある。
– クォーターパネル(外板)の板金は原則“修復歴なし”。
しかしインナーパネルまでの交換・修正やピラーに及ぶと“修復歴あり”に転じる。
– 小さな塗装肌違い・ガラス交換だけでは修復歴とは限らず、総合判断が重要。
実務的な購入手順(おすすめの進め方)
– 事前に「修復歴の有無」を販売店に口頭だけでなく書面(見積書・注文書)で明記させる
– 第三者の「車両状態証明書(評価書)」の提示を求める。
なければ検査の実施を依頼
– 自身でも上記チェックリストで実車確認(できれば昼間の屋外自然光で)
– 試乗して直進性・異音・ブレーキ時挙動を確認、可能ならアライメント数値を取得
– 整備記録簿・修理明細・保険修理履歴の開示を打診(個人情報の制約はある)
– 契約書に「修復歴なし相違時の解除・返金条項」や保証内容を明記
根拠・基準について
– 定義の根拠
中古車業界では、日本自動車査定協会(JAAI)やAISなどの査定・検査基準で、骨格部位の損傷・修正・交換を「修復歴」と定義する運用が広く採用されています。
骨格部位の例示や判定方法は各機関の基準書に基づき、オートオークションでも同等の基準で評価(R/RAなど)が付与されます。
– 表示の根拠
一般社団法人 自動車公正取引協議会が運用する「中古自動車の表示に関する公正競争規約」および同実施細則では、消費者の適正な選択に資するため、修復歴の有無と内容等の重要事項を表示することが求められています。
多くの正規販売店・会員事業者はこの規約に従い、車両状態の表示・説明義務を負います。
– 技術的根拠
メーカー公表のボデー寸法図やサービスマニュアル、フレーム修正機による基準点計測、塗膜厚計による塗装膜厚の数値比較、アライメント基準値との偏差、SRS/ADASのキャリブレーション要否など、客観的な計測・診断で裏付けが可能です。
さらに精度を高めるヒント
– 塗膜計を携行(鉄/アルミ両対応が望ましい)
– 高解像度ライトと小型鏡で溶接・シーラーの目視精査
– 車台番号刻印周辺の再刻・研磨痕がないか(改ざんは論外)
– ヘッドライトやガラスの製造年週コード、シートベルトの製造タグ年式の整合性確認
– アンダーカバーを外せるなら外して下回りを直接確認(販売店の許可が前提)
まとめ
– 修復歴は「骨格部位に及ぶ修理の有無」で判定され、価値・安全性に直結します。
– 見分けは、書類(評価書・記録)+実車の骨格・下回り・開口部・塗装・試乗の総合判定が基本。
– もっとも確実なのは第三者機関の車両状態証明を活用し、契約書に表示・相違時の取り決めを明記すること。
– 外装交換や軽微な板金だけでは修復歴とは限らず、骨格まで及んでいるかが分かれ目。
迷ったらプロの検査を。
このプロセスを踏めば、個人でも相当の確度で「修復歴の有無」を見極められますし、万一の見落としリスクも契約上の保護で下げられます。
購入前にできる限り客観資料と第三者評価を集め、実車で“骨格部位”を意識して確認していくことが最大のポイントです。
事故歴・修復歴は中古車の価格や安全性にどんな影響があるのか?
結論からいえば、「事故歴・修復歴」は中古車の売買価格に明確なマイナス(一般的に1〜5割程度、条件次第ではそれ以上)の影響を与えます。
一方、安全性への影響は「損傷の部位・程度」と「修理の質(手順遵守・計測・部品・校正)」に強く依存します。
適切な手順で骨格まで含めて正しく修復され、必要な電子制御の校正が完了している車は、理論上は新車時の安全性能を概ね回復できますが、情報の非対称性と検証の難しさから市場は保守的に評価し、価格は下がりやすいのが実情です。
以下、価格・安全性への影響、そして裏付け(根拠)と実務的な見分け方を詳しく解説します。
用語と制度の整理
– 事故歴と修復歴の違い
– 事故歴は広義で、接触や部品交換なども含むことがあります。
– 修復歴は狭義・実務用語で、車体の骨格部位(ラダーフレームやサイドメンバー、ピラー、クロスメンバー、ダッシュパネル、フロア等)の損傷・修正・交換を伴うものを指します。
日本の中古車市場では価格判断の軸は「修復歴の有無」です。
外板やボルトオン部品の交換のみは通常「修復歴なし」に分類されます。
– 表示義務
– 中古自動車の表示に関する公正競争規約・同施行規則(自動車公正取引協議会)では、修復歴の有無表示が求められ、骨格部位に関する基準が整備されています。
AISやJAAI、JAAAなどの第三者検査でも同趣旨の基準が運用されています。
価格への影響
– 下落の傾向(目安)
– 修復歴ありは、同条件の修復歴なしに比べて概ね10〜40%の価格減が相場観です。
人気・希少性・年式・走行距離・損傷部位と修理品質によっては5%未満に留まる例もあれば、50%超の大幅減となる例もあります。
– 価格が下がる理由
– 将来の下取り・再販時にも同様のディスカウントがかかるため、買い手はその分を織り込む。
– 情報の非対称性(修理の質を完全に検証しづらい)によるリスクプレミアム。
– 金融・保証の制限(長期保証の対象外、サードパーティ保証の付帯制限など)が付きやすく、需要が狭まる。
– 輸出・オークションの評価ルール(R/RA等のグレード)で値付けが明瞭に低下しやすい。
– 影響度に差が出る要素
– 損傷部位 フロントインナー、ピラー、サイドメンバー、フロア等の一次構造は影響大。
コアサポート単体やボルトオン補機交換は影響小。
– 修理方法 骨格の交換・計測修正がメーカー指定手順で記録(フレーム計測シート等)されているか。
– 走行性能・静粛性 直進性・アライメント・NVHが良好か。
– 安心材料 修理明細、ビフォー・アフター写真、ADAS校正記録、第三者鑑定結果が揃えば割引幅が縮まる傾向。
安全性への影響
– 構造強度とクラッシャブルゾーン
– 近年の車体は高張力鋼・超高張力鋼やマルチマテリアル構造で衝撃エネルギーをコントロールする設計です。
骨格の寸法・材質・接合(スポット溶接、MIGブレージング、接着剤併用スポット等)が崩れると衝突時のエネルギー吸収と乗員保護のバランスが崩れ、二次損傷やキャビン変形が増える恐れがあります。
– 不適切な加熱矯正や誤った溶接は、超高張力鋼の強度低下(焼きなまし・脆化)を招きます。
多くのメーカーはA/BピラーやサイドメンバーなどのUHSS部位について「修正ではなく部品交換」「特定の溶接方法」といった厳格手順を定めています。
– 拘束装置・エアバッグ
– 衝突センサー、エアバッグ、シートベルト・プリテンショナーは一度作動したり規定閾値の衝撃を受けた後、規定通り交換・診断が必要です。
不適切な再利用や社外流用品の組み込み、SRS警告灯のごまかしは重大な安全リスクになります。
– ADAS(先進運転支援)の校正
– ミリ波レーダー、単眼/ステレオカメラ、LiDAR、ソナーはバンパー/グリル/ウインドウ脱着や骨格修正・サブフレーム交換で位置関係が微妙にずれると性能が大きく低下します。
メーカー手順による静的・動的キャリブレーションが必要で、未校正だとAEB/ACC/LDW等が誤作動・不作動を起こします。
– 日本では2020年の道路運送車両法改正で特定整備制度が導入され、電子制御装置整備(ADAS校正等)には「特定整備認証」を受けた事業場での作業が求められます。
適切な校正記録は安全性評価の重要資料です。
– 足回り・アライメント
– サブフレームやストラットタワーの僅かな歪みでもトー/キャンバーが狂い、制動距離やハンドリング、タイヤ摩耗に影響します。
4輪アライメント測定・調整が不可欠です。
– 腐食・耐久性
– 事故修復部位のシーラー・防錆・塗膜が不十分だと数年後に腐食が進み、強度低下と再修理リスクが高まります。
特に海沿い地域や融雪剤環境では影響大。
– 例外と留意点
– 骨格に及ばない軽微な外板修理は安全性影響が小さい一方、骨格損傷でもメーカー手順・認定設備(ジグ/計測治具)・純正部品・適正溶接で修復し、エアバッグやADASを正規校正すれば、実用上の安全性は十分に回復可能です。
問題は「それを証明できるか」と「将来にわたり維持できるか」です。
根拠・エビデンスの要点
– 表示と定義
– 中古自動車の表示に関する公正競争規約では骨格部位の修復を「修復歴」と定義し表示を義務付け。
AIS/JAAI/JAAAなどの検査基準も同旨で運用。
– 車体構造と修理手順
– 自動車メーカーのボディ修理書では、UHSS部位の加熱禁止・交換指定、スポット溶接点数や接着併用、シーラー・防錆復元等が細かく規定。
高張力鋼は熱履歴で機械特性が低下することは材料工学・自動車工業会(SAE等)の技術資料で確立しています。
– 衝突安全
– UNECE R94/95や各種NCAPはボディのエネルギーマネジメントを前提化。
設計通りでない修復は性能を損なう可能性がある、というのが各OEM・保険修理標準(例 Thatcham Researchの修理基準)が繰り返し注意喚起する点です。
– ADAS校正
– 国内の特定整備制度で校正の必要性が制度化。
海外でもAAAやThatchamのレポートで、フロントガラス交換やバンパー修理後の未校正が機能不全・誤作動リスクになることが示されています。
実務的な見分け方・確認ポイント
– 書類・記録
– 修理明細(部品番号・交換/修正の別)、フレーム計測シート、溶接/補強手順の実施記録、塗装範囲、使用塗料、防錆処理内容。
– ADAS校正記録(静的/動的、ターゲット使用、認証事業場名)、4輪アライメント測定結果。
– エアバッグ・シートベルト交換記録、故障コード履歴(SRS/ABS/ADAS関連)。
– 第三者鑑定(AIS/JAAA等)の展開図・測定値、評価点。
– 目視・簡易チェック
– パネル隙間の均一性、スポット溶接痕の規則性、シーラーの塗布パターン、裏面の溶接スパッタ、塗膜厚(簡易膜厚計で周辺と比較)、トランク/フロアの歪み。
– 試乗での直進性、ブレーキング時の片寄り、ハンドルセンター、異音や振動。
– 売り手への質問
– どこが損傷し何を交換したか(骨格か否か)、純正部品か、メーカー手順か、認証工場か、写真の有無、保証内容、雨漏りや水没歴の有無。
– 専門家の関与
– 高額車や骨格修理歴がある車は、購入前に認証工場または第三者検査でアンダーボディを含む実車確認を推奨。
購入判断の考え方
– 割安を享受する代わりに、将来の再販価格とリスク(隠れ不具合、保険修理費の増加、追加整備コスト)を織り込む。
– 修理品質と証拠が揃っている個体(記録完備・校正済・走行テスト良好)は、「修復歴なしの相場」より大幅に安く、安全性も実用上問題ない可能性が高い「コスパの良い選択」になり得ます。
– 一方、記録不備や骨格大破・切り継ぎが多い個体、ADAS未校正の個体は、たとえ安価でも避けるのが無難です。
まとめ
– 価格面 修復歴ありは平均して1〜4割の値引き要因。
要素により振れ幅大。
– 安全面 骨格・拘束装置・ADAS・足回りの「正規手順での復元」と「計測・校正記録の裏付け」が鍵。
これらが満たされれば安全性は大きく損なわれないが、証明できない車はリスクが高い。
– 根拠 国内の表示規約・特定整備制度、OEM修理書、材料工学の知見、海外修理基準や研究機関の報告が「修理品質が安全性を左右する」ことを示している。
賢い選び方は、「安さ」ではなく「修理品質の透明性」にお金を払うことです。
修復歴があっても、情報が開示され、正しく直されている一台なら、長く安心して乗れる可能性は十分にあります。
逆に、曖昧な一台は相場より安くても、結局高くつくことが多い、というのが市場の経験則です。
販売店や第三者機関の開示情報はどこまで信用できるのか?
以下は、日本の中古車市場における「修復歴・事故歴の有無」に関する開示情報について、販売店の説明と第三者機関の鑑定(検査)情報がどこまで信用できるか、その根拠と限界、そして実務的な見極め方をできるだけ具体的に整理したものです。
1) 用語整理(なぜここがズレるとトラブルになるのか)
– 修復歴
業界では「車体の主たる骨格部位に損傷があり、交換・修正した履歴」を指します。
判断基準は日本自動車査定協会(JAAI)の定義が一般に準拠基準とされ、自動車公正取引協議会(AFTC)の表示ルールでもこれに沿うのが通例です。
骨格部位には、サイドメンバー(フレーム)、クロスメンバー、ピラー(A/B/C)、ダッシュパネル、ルーフパネル、フロアパネル、トランクフロア、インサイドパネル、(溶接一体構造の)ラジエータコアサポート等が含まれます。
外板(ドア・フェンダー等)の交換や軽微な板金は通常「修復歴」に該当しません。
– 事故歴
法的・業界的に統一定義が弱く、広義には事故に伴う修理全般を指し得ますが、広告表現では「修復歴なし=事故歴なし」と同視されることが多い一方で、「エアバッグ展開」「足回り損傷」「冠水・火災」など修復歴の定義外のダメージはグレーになりがちです。
ここを巡る理解齟齬がトラブルの温床です。
– 板金歴・補修歴
外板の修理・塗装といった軽微修理。
見た目に綺麗に直っていれば、販売現場では「修復歴なし」と並立して語られることが多い領域です。
2) 販売店の開示情報はどこまで信用できるか
– 信用できる根拠(制度・インセンティブ)
– 表示ルールの存在
自動車公正取引協議会(AFTC)の「中古自動車の表示に関する公正競争規約・施行規則」に加盟する販売店は、修復歴の有無、走行距離、年式、保証の有無など一定の必須表示が求められます。
修復歴の判断もJAAIの定義準拠が基本です。
虚偽・不当表示は是正指導や処分の対象になります。
– 法的リスク
誤認を誘う表示は景品表示法違反のリスクがあり、重大な非開示・虚偽は民法上の契約不適合責任(旧・瑕疵担保)の対象となり得ます。
発覚時の返品・減額・評判毀損のコストは販売店にとって大きな抑止力です。
– 仕入元の情報インフラ
業者オークション(USS、JU、TAA、NAA、ARAI等)の検査票には評価点・修復歴判定が明記され、走行距離も業界の「走行距離管理システム」(オークション等の履歴を用いた照合)でチェックされます。
多くの販売店はこの一次情報を参照しており、構造的にはゼロからの目利きではなく標準化された情報に依拠しています。
– それでも限界・注意点がある理由
– 定義の「外側」のダメージ
エアバッグ展開歴、ボルトオンのコアサポート交換、サブフレームや足回りの曲がり、冠水・塩害・内装の焼け、いわゆる「半カット・載せ替え」等は、修復歴の厳密定義外または判定が難しい領域です。
販売現場では「修復歴なし」としつつ説明が不足するケースがあります。
– 認識のばらつきと人的限界
販売店が自社で下回り点検・膜厚計測・溶接痕確認等を十分に行っていない場合、オークション検査票の見落とし、古い修理の巧妙な隠蔽(全面再塗装、シーラー打ち直し、純正風スポット痕の再現)などで見抜けないことがあります。
– 経済的インセンティブ
価格差が大きい(修復歴車は相場が下がる)ため、境界事例を「軽微」と評価したくなる誘惑は構造的にあります。
悪質な例では非開示もあり得ますが、業界団体加盟店や大手はこのリスクを強く嫌います。
3) 第三者機関(鑑定・検査)の情報はどこまで信用できるか
– 主な機関と枠組み
– AIS(株式会社AIS) カーセンサー認定等の車両状態証明を実施。
300項目超の外観・内装・下回り・骨格判定、修復歴判定、評価点付与。
検査員の社内資格・教育制度が整備。
– JAAA(日本自動車鑑定協会) Goo鑑定などを実施。
類似のプロトコルで修復歴判定と評価点。
– JAAI(日本自動車査定協会) 査定士制度を通じ、修復歴の定義・査定加減点の基準を整備。
販売店や保険会社の実務基準の中核。
– 業者オークションの検査部門 出品時に全車検査、評価点と修復歴(R/RA表記等)を付与。
– 信用できる根拠
– 標準化された判定基準とトレーニング
骨格部位の定義、溶接痕・シーラー・シワ・歪み・ピラー根元の応力跡、膜厚の不連続性など、判定観点が標準化され、検査員は訓練を受けています。
一定の再現性があります。
– 独立性
検査自体は販売店からの委託でも、企業としての評価基準は統一され、検査結果は写真付きの「車両状態証明書」として外部公開されます。
後日のトラブルが自社信用リスクになるため、意図的な甘い判定は合理的でありません。
– 大量データに基づく経験則
オークションや大手鑑定会社は年間数十万台規模を扱い、判定ノウハウが蓄積しています。
相場や金融の審査にまで用いられるため、市場全体での事実上のスタンダードになっています。
– 限界・抜けやすいポイント
– 非破壊・短時間検査の限界
基本は目視・触診・簡易測定(膜厚計・下回り確認)で、内張り剥がしや分解、フレームベンチ測定は行いません。
巧妙な修理、接着・リベット構造(アルミ・高張力鋼・構造用接着剤)の普及で痕跡の可視性が低下しています。
– 境界条件の解釈差
ボルトオン部品(車種によりコアサポート等)の扱い、ピラー外板のスキン交換のみ、軽微なインナーパネル修正など、判定が割れやすい事例は存在します。
オークション会場間・検査員間でのグレード差もゼロではありません。
– 災害・電装・EV特有の問題
冠水歴は内装分解しないと痕跡が薄くなりがちです。
EV/PHVではバッテリーケースやフロアの微小歪み、搭載部の交換歴の検知が難しい場合があります。
4) 実務上の「信用度」の目安(総合評価)
– 販売店の自己申告のみ ばらつきが大きい。
小規模店や非加盟店では特に慎重に。
– 販売店+オークション検査票の提示 一定以上信頼できる。
ただし情報が古い/転売を経て改修された後の変化には注意。
– 第三者の車両状態証明(AIS/JAAA等)あり 現状時点の客観性が高く、一般消費者としては実務的に「かなり信頼できる」レベル。
ただし万能ではない。
– 上記に加え、契約書面での定義明記・解除条項 万一のときの救済手段が確保され、安心度が最も高い。
5) 根拠(規範・制度・判例傾向の要点)
– AFTCの公正競争規約
中古車の必須表示項目や修復歴の表示が定められ、JAAIの定義に準拠するのが通例。
違反は行政・業界団体の是正対象。
これにより「修復歴」という言葉の最低基準が担保されています。
– 民法(契約不適合責任)と景品表示法
重大な事実(修復歴・冠水歴・メーター改ざん等)の不実告知は、契約の目的に適合しないとして解除・損害賠償・代金減額の対象になり得ます。
裁判所も「販売店が知り得た・知り得べき重要事項の不実表示」に厳しい傾向です。
– オークション検査・鑑定の社会的通用性
銀行の与信、保証会社、買取相場形成、輸出取引等でオークション評価・修復歴判定が「実務の前提」として扱われています。
完全無謬ではないものの、市場参加者が受容する精度に達していること自体が信頼性の根拠です。
6) 買い手ができるリスク低減策(実用チェックリスト)
– 第三者の車両状態証明書を必ず見る(AIS/カーセンサー認定、JAAA/Goo鑑定等)。
証明書番号・発行日・写真を確認し、骨格判定の詳細(どの部位か、軽微か、中・大)まで把握。
– 修復歴の定義を販売店に確認し、「JAAIの定義に基づき修復歴なし」を契約書に明記してもらう。
可能なら「冠水歴・火災歴・エアバッグ展開歴・メーター改ざん歴が判明した場合の解除・全額返金条項」も追記。
– オークション検査票(出品票)の開示を依頼。
嫌がられることもありますが、見せられない事情がある場合のシグナルになります。
評価点、R/RA/修復歴有無、指摘部位を確認。
– 下回りとエンジンルームを自分の目でも確認。
アンダーコートの不自然な塗り直し、スポット溶接痕の不連続、シーラーの打ち直し、左右で異なる膜厚、ピラー根元の波打ち、シートベルトテンショナー・エアバッグの交換跡(カバー・年式不一致)等をチェック。
– 可能なら購入前点検を第三者(メーカー系ディーラーや鈑金工場)に依頼。
アライメント測定、足回り・サブフレームの曲がり、充電口・高電圧部(EV)周りの損傷有無なども見てもらう。
– 走行距離の整合性は記録簿・車検記録・12カ月点検ステッカー・オイル交換ステッカー・過去広告のキャッシュ等でクロスチェック。
販売店に「走行距離管理システム」の照合結果の提示を求める。
– 水害多発地域・沿岸部由来は冠水・塩害を要注意。
床下配線の腐食、シートレールの錆、室内のカビ臭、フロアスポンジの湿り、ランプ内の曇り・泥、シートベルト下端の泥痕など。
– 保険修理の有無は販売店に「保険修理記録があれば開示」を依頼。
メーカーDMSの整備履歴は個人情報の壁がありますが、販売店経由で範囲内の確認ができる場合があります。
7) 結論(バランスのとれた見方)
– 販売店の開示情報は、AFTCの規約に従い、JAAI基準での修復歴判定を前提とする限り、一定の信頼性があります。
特に大手・団体加盟店・保証付き販売はリスク管理を重視しており、意図的な虚偽はレアです。
– 第三者機関の車両状態証明は、現時点のクルマの状態を標準化手法で可視化するため、実務的には最も頼れる外部情報源です。
とはいえ非破壊・短時間検査である以上、巧妙な修理や定義の外側(冠水・電装・足回り単独損傷等)の見落としは残り得ます。
– したがって「相当程度信頼できるが、100%ではない」。
最も合理的なのは、第三者証明+契約条項の明確化+必要に応じた追加点検という“多層防御”です。
これにより、万一の際も救済が効きますし、購入後の安心感が大きく違います。
最後に補足として、数値的な誤判定率のような公的統計は一般に公開されていません。
これは検査条件や対象母集団が揃いにくく、単純比較が難しいためです。
その代わりに、業界団体の規約・査定基準の存在、オークション検査票や車両状態証明が金融・相場形成を含む広範な実務に採用されている事実、そして法的救済の枠組みが整っていることが、信頼性の実質的な裏付けになっています。
購入前に避けるべきリスクと確認・交渉のポイントは何か?
修復歴・事故歴の有無を見極めることは、中古車購入の最重要ポイントの一つです。
強度・直進性・安全装備の作動精度・将来の下取り価格・維持費に直結するため、避けるべきリスクと確認・交渉の勘所を体系的にまとめます。
根拠については、業界基準や工学的背景、実務慣行に基づいて解説します。
用語整理と「避けるべき」度合いの目安
– 修復歴車の定義(業界基準の根拠)
一般財団法人日本自動車査定協会(JAAI)やAISなどの第三者検査機関では、「車体の骨格(フレーム)部位に損傷・交換・修正がある車」を修復歴車と定義します。
骨格部位とは、フロント/リアクロスメンバー、ラジエーターコアサポート、ピラー類(A/B/C)、ダッシュパネル、ルーフパネル、フロア、サイドメンバー、インサイドパネル等、衝突時のエネルギーを受け持つ部材です。
この定義に該当しない外板(フェンダー、ボンネット、ドア)等の交換や小板金は「事故歴あり」と表現されることはあっても、修復歴とは区別されます。
– 避けるべきリスクの優先順位(目安)
1) 冠水/水没歴・火災歴 原則回避。
電装腐食やカビ、二次不具合の長期リスクが高い。
EV/PHVは高電圧系の安全・保証面で致命的。
2) 骨格部位の「交換」や複数部位「修正」 直進性、衝突安全、ADAS(自動ブレーキ等)エーミング精度に影響。
避けるか、価格大幅調整+十分な保証が条件。
3) 前部位の大破(ダッシュパネル近傍、フロントインサイド、サイドメンバー先端まで損傷) センサーやサスペンションジオメトリに影響しやすく、見送り推奨。
4) ピラーやルーフ修理 側突・転覆級で、強度復元のバラつきが大きい。
基本避ける。
5) 外板交換・軽度の補修(骨格無関与) 状態良好で修理記録が明確なら許容可。
価格は無事故比で軽微な調整。
– 価格への影響(相場感の根拠)
業者オークションや小売現場では、修復歴車は同等条件の無事故車比で概ね10〜30%程度の価格差が生じます。
骨格複数・交換ありで20〜35%、軽微な骨格修正単一なら10〜15%、単なる外板交換・再塗装のみなら0〜5%程度。
冠水・火災は40%以上割安でも敬遠される傾向です(再販性・クレームリスクのため)。
なぜ危険か(技術・実務の根拠)
– 構造強度とクラッシュエネルギーマネジメント
骨格部位は衝突エネルギーを計画的に吸収・分散する設計。
交換や修正の施工品質が不十分だと、次回の衝突で意図通り潰れず、キャビン侵入リスクが上がります。
高張力鋼やホットスタンプ材は加熱・修正で特性劣化の恐れ。
– 直進性・タイヤ偏摩耗・アライメント
サブフレームやメンバーの微小な歪みでも、トーやキャスター・キャンバーがズレ、直進時の補舵、ブレーキング時の蛇行、片減り、ロードノイズ増を招きます。
四輪アライメントの数値で可視化可能。
– ADAS/エーミングの正確性
ミリ波レーダー、カメラ、ソナーは取付角度・高さの誤差に敏感。
骨格修理やバンパー/グリル交換後にエーミング未実施だと誤作動・不作動の危険。
国交省の整備基準でもエーミング作業は重要整備として扱われ、認証工場での適正実施が求められます。
– 電装・腐食(冠水の深刻さ)
冠水は配線カプラや基板に電解腐食を生み、時間差故障が多発。
シートレールやシートベルト内部の錆、コネクタの緑青、車内のカビ臭などが典型的痕跡。
EV/PHVは高電圧バッテリーの浸水で安全・保証双方のリスクが極めて高い。
– 再販価値・下取り査定
査定協会の評価基準では修復歴の有無が大きな減点項目。
購入時に割安でも、売却時の価格低下と販路制限(認定中古不可等)でトータル損失になりやすい。
現地確認の実用チェックリスト
– 書面・履歴
– 点検整備記録簿の通しでの存在(年次・走行距離の整合性)
– 第三者検査(AIS/JAAA、Goo鑑定・カーセンサー認定等)の車両検査証の有無
– 修理見積書/鈑金工場名・作業明細(交換/修正部位、溶接・パネル、純正/中古部品)
– オークション出身車は評価表(R/RA表記の有無、外装・内装評価)
– 目視(チリ・段差・塗装肌)
– パネルのチリ・面のうねり、塗装ミスト、オレンジピールの差
– ボルトの回し跡(フェンダー、ドア、ボンネット、ヒンジ)
– シーラーの塗り直し、スポット溶接間隔の不均一
– フロアのシワ、スペアタイヤハウスの歪み、トランクの水跡
– ガラスやヘッドライトの製造年の左右差
– 下回り
– サブフレーム・クロスメンバーの曲がり跡、塗り直し
– サビの進行具合(新しいアンダーコートで隠していないか)
– 室内・冠水痕跡
– シートレール錆、シートベルトを根元まで引出して泥・錆の有無
– カーペット下の湿気、カビ臭、消臭剤の強い匂いでカバーしていないか
– 電装・警告灯
– IGオンでエアバッグ・ABS・エンジン等の警告灯が一度点灯し、エンジン始動後に正常消灯するか(無理消しの疑いに注意)
– 試乗
– 直進時の補舵量、路面の轍での取られ方
– ブレーキング時の流れ、ハンドルの戻り、異音
– 60〜80km/hの振動、ロードノイズ左右差
– 専門機器
– 四輪アライメント測定値(トー・キャンバー・キャスター)
– 塗膜計での塗装厚(国産新車塗装は概ね90〜120μm、極端な部位差は再塗装の目安)
– OBDスキャンでの故障コード、エアバッグECUのクラッシュデータ履歴
– ADASエーミング実施記録(校正シート・証明書)
店舗での質問テンプレ(重要事項の言質取り)
– この車は「修復歴あり/なし」のいずれか。
骨格に関与した修理・交換は具体的にどの部位か。
– エアバッグ作動歴はあるか。
交換・SRS自己診断は正常か。
– 冠水・火災・塩害歴は絶対にないか。
あるなら部位と対策。
– 修理はどの工場で、純正手順を踏み、3D計測・治具・スポット溶接機を使用したか。
写真記録はあるか。
– ADAS付車は、バンパー/ガラス/骨格修理後にメーカー手順でエーミング済みか。
証明書の提示可否。
– 四輪アライメントを直近で測定したか。
数値の提示は可能か。
– 第三者検査(AIS/JAAA等)の結果票を提示できるか。
– メーカー保証の残存と継承手続き、延長保証の適用可否(EVバッテリー保証を含む)。
– 契約書の「車両状態説明書」に、修復部位・事故歴・冠水歴の有無を明記してもらえるか。
虚偽時の契約不適合責任(民法)の取り扱い。
交渉のポイント(価格・条件)
– 相場基準の提示
– 無事故同等車の小売相場を複数サイトで提示し、修復内容に応じて以下を目安に減額交渉。
– 骨格「修正」単一部位 相場比10〜15%下げ
– 骨格「交換」または複数部位 20〜35%下げ
– 外板のみ 0〜5%下げ
– 冠水・火災 取引回避か、保証・返品特約を強化の上で大幅下げ
– 条件強化での実質価値確保
– 納車前の四輪アライメント測定と数値の添付、数値外れ時の調整含む
– ADASエーミング実施証明の添付(該当車)
– 主要消耗品の交換(タイヤ・ブレーキ・バッテリー・ワイパー・エアフィルター)
– 第三者鑑定の再実施費用を販売側負担
– 1〜3か月または3,000〜5,000kmの包括保証(骨格・電装・水漏れ・異音を明記)
– 修理写真・見積書の交付
– 契約書での明記事項
– 車両状態説明書に「修復歴あり/なし」「水没・火災歴なし」「エアバッグ未作動/作動あり」で事実を記載
– 不適合発覚時の対応(修補・代替・減額・解除)を明文化。
2020年民法改正後は契約不適合責任が根拠
– 認定中古や長期保証に加入可否。
加入不可の理由も記録
具体的に避けたいレッドフラッグ
– ルーフ交換、ピラー修理/交換、ダッシュパネル損傷の修理歴
– サイドメンバー、クロスメンバーの交換や切継ぎ痕
– フロアの波打ち、リアパネルの牽引跡隠し
– 新しいアンダーコートで一面を塗り直し、溶接跡隠し
– エアバッグ警告灯が点かない、もしくは始動時に点灯しない(無理消しの疑い)
– 車内の強い消臭剤、カビ臭、シートベルト内部の泥
– ガラス・ライトの年式不一致が多数箇所
– オークション評価がR/RAで、検査票を見せない業者
– EV/PHVでバッテリーケースの傷・凹み・浸水歴
許容余地があるケース(コスパ狙い)
– 骨格不関与で、外板1〜2枚の交換や軽微板金、修理写真と見積が明確、アライメント・試乗が問題なし
– 骨格「修正」でも、軽微で部位が限定、3D計測記録やアライメント良好、価格が十分に安い、保証条件が厚い
– ディーラー認定中古は原則修復歴なししか扱わないため、無事故にこだわる場合は優先度高
手順のおすすめフロー
– 事前調査 相場・型式の弱点・リコール状況を把握
– 一次ヒアリング 修復歴・事故歴・冠水の有無を具体部位で確認
– 現車確認 上記チェックリストに沿って目視+試乗
– 第三者検査・整備工場でのリフト点検、塗膜計・OBD診断
– 条件交渉 価格+保証+書面化
– 契約書整備 車両状態説明書・保証書・エビデンス添付
– 納車前最終確認 アライメント・エーミング結果、消耗品交換の実施
よくある誤解と補足
– 保険加入可否 事故歴車でも任意保険加入は通常可能。
保険料は型式料率クラス等で決まり、事故歴の有無とは直接連動しません。
ただし将来の下取りは不利。
– クーリングオフ 店頭販売の中古車に原則適用なし。
契約不適合責任や特約で守るのが現実的。
– メーカー保証 修復歴があるだけで自動失効は通常ありませんが、冠水・火災・改造・不適切修理は対象外になり得ます。
EVの駆動用バッテリー保証は事故・水没で失効する場合があるため事前確認必須。
根拠の出所の例
– 修復歴の定義と骨格部位 日本自動車査定協会(JAAI)やAIS等の検査基準。
骨格部位損傷・交換・修正が修復歴の判定根拠。
– 価格差の傾向 中古車オークション評価(R/RA)と小売相場の実務慣行。
修復歴は再販性・保証リスクにより小売価格が10〜30%程度下がる傾向。
– ADASエーミングの重要性 メーカー整備書・国交省の整備通達。
衝突被害軽減ブレーキ等のカメラ/レーダーは交換・脱着後の校正が必須。
– 冠水リスク 電装コネクタの腐食・カビ・時間差故障が多発するという整備現場の統計的実感とメーカー保証規定(水没は保証対象外)。
最後に、実際の交渉で使える一文例
– 「第三者機関の検査票と四輪アライメントの数値、ADASエーミング証明を納車前にご提示いただければ、即決を検討します。
修復部位は車両状態説明書に具体記載、虚偽時は契約不適合責任に基づく解除・返金を契約書に明記してください。
」
– 「同条件の無事故相場がXXX万円です。
骨格修正歴があるため相場比で15%の減額と、納車前アライメント調整・主要消耗品交換・3か月保証の付帯を希望します。
」
まとめ
– 避けるべきは冠水・火災、ピラー/ルーフ、骨格交換や複数部位修正。
前部大破も慎重に。
– 判断の柱は「骨格関与の有無」「アライメント/ADASの正常性」「修理品質の証跡」「価格差」「保証条件」。
– 書面化と第三者検査でリスクを定量化し、価格と条件の両輪で交渉することが、安心とコスパを両立する近道です。
【要約】
JAAIの中古自動車査定基準は、年式・走行・グレード等の基礎条件に、外装/内装の損傷、骨格修復の有無、機関・下回り、装備・改造、書類・車検残を減点法(加減点)で評価し、客観的な評価点と取引の参考価格を算出する枠組み。水没・焼損等は厳しく扱う。