「修復歴なし」とは具体的に何を意味し、どこまでが“修復歴”に当たるのか?
「修復歴なし」は、中古車の表示で広く使われる業界用語で、「車体の骨格(構造部位)に、事故や外的損傷等により生じたダメージを修理・交換した記録がない」という意味です。
ポイントは「骨格(構造体)に及ぶ損傷の有無」であり、外板や付属品レベルの交換・塗装は含みません。
したがって「修復歴なし」だからといって、バンパーやドア、ボンネットなどの交換・塗装が一切行われていないことを意味するわけではありません。
あくまで骨格部位を修理・交換していないことを示すラベリングです。
修復歴の基本定義
– 業界の共通理解 「修復歴」とは、車体骨格部位に損傷が生じ、それを交換または修正(切断・溶接・引き出し修正等)した履歴をいいます。
– 代表的な骨格部位 フロントサイドメンバー(フレーム)、クロスメンバー、フロントインサイドパネル、ピラー(A/フロント、B/センター、C/リア)、ダッシュパネル、ルーフパネル、フロア(ルームフロア、ラゲッジ/トランクフロア等)、リアインナーパネル(クォーターインナー)、バックパネル、ラジエータコアサポート等。
モノコック車ではこれらがボディ構造を担い、ラダーフレーム車ではフレームが中心的骨格となります。
– 対象となる作業 交換、切り継ぎ・溶接、フレーム修正機での修正、骨格部位の大がかりな鈑金整形など。
単なる塗装や表面的なパテ補修のみでは「修復歴」とはしないのが一般的です。
修復歴に当たらない典型例(ただし車両価値には影響しうる)
– ボルトオン外板・付属品の交換や修理 フロントフェンダー、ボンネット(フード)、ドア、バックドア(ハッチ/トランクリッド)、バンパー、ヘッドライト、テールランプ、ガラス等の交換・塗装は通常「修復歴」には含みません。
– 小規模な板金・塗装 骨格の変形を伴わない小凹みの鈑金、スクラッチの補修塗装。
– 消耗品・機能部品の交換 ラジエータ、コンデンサー、サスペンションアーム、ブレーキ、マフラー等の交換。
– エアバッグ展開の有無 エアバッグが作動したからといって自動的に修復歴になるわけではありません(骨格損傷とその修理がなければ修復歴ではない)。
ただし実態としては骨格損傷を伴うことが多く、結果的に修復歴車になるケースはあります。
グレーゾーン・運用差が出やすい箇所
– ラジエータコアサポート 多くの評価基準では骨格扱いですが、上部のボルト留めパネル単体交換など軽微なケースを「修復歴に含めない」運用があるオークション・鑑定も見られます。
一方で溶接部を含む交換や歪み修正は修復歴とするのが一般的です。
– クォーターパネル(リアフェンダー外板) 外板単体の交換は骨格に含めないのが通常ですが、交換時にインナーパネルやリアピラー部に切り継ぎが及んだ場合は骨格修理に該当し得ます。
– ルーフパネル 皮一枚の交換でも骨格部位とされるため、雹害などでもルーフ交換をすると修復歴に該当するのが一般的です。
– バックパネル・フロア 追突等でバックパネルやラゲッジフロアに溶接修理・交換があれば修復歴となります。
– メーカー保証・リコールによる骨格交換 事故起因でなくとも、骨格部位を交換・修正した事実があれば修復歴と扱うのが原則です(表示上「メーカー補修」と注記されることもあります)。
「修復歴なし」が意味する範囲と誤解しやすい点
– 「無事故」と同義ではない バンパー交換や外板の鈑金・再塗装、ライト交換などは行われていても「修復歴なし」と表示できます。
逆に、見た目がきれいでも骨格に及ぶ修理があれば「修復歴あり」です。
– 冠水・火災・塩害とは別概念 「冠水歴」「焼損歴」「腐食進行」は修復歴とは別軸の告知項目で、修復歴なしでも冠水歴がある可能性は理論上あります。
これらは別途の開示・検査が必要です。
– 記録の完全性の問題 「修復歴なし」は、専門の検査・鑑定によって骨格修理の痕跡が認められないという意味であり、過去の全修理履歴が公的に一元管理されているわけではありません。
見落としを減らすために複数の鑑定や記録の照合が有効です。
どこまでが「修復歴」か(具体的事例)
– 修復歴に当たる例
– フロントサイドメンバーを切り継いで交換、またはフレーム修正機で引き出し修正。
– A/B/Cピラーの交換・切り継ぎ。
– ルーフパネルの交換(雹害・落下物含む)。
– ダッシュパネルの交換・修正(エンジンルーム側と室内側の隔壁)。
– ルームフロア、トランクフロア、バックパネル等の交換・溶接修理。
– ラジエータコアサポートの溶接部を含む交換・修正。
– ラダーフレーム車のフレーム曲がり修正・交換。
– 修復歴に当たらない例
– フロントフェンダーやドア、ボンネット、バンパー等の交換・塗装。
– ライト類、ラジエータ、コンデンサー、サスペンションアーム等の交換。
– 小さなへこみの板金、磨き・再塗装のみの外観補修。
– フロントガラス交換(ピラーやルーフに及ぶ修理がなければ)。
どのように判定されるか
– 鑑定・査定の実務では、以下のような方法で骨格修理の有無を見ます。
– 溶接痕、スポット溶接ピッチの不整合、シーラーの盛り方や塗布方向の違い。
– フレーム修正のクランプ痕、引き出し痕。
– 純正溶接点の欠落や後補修の打点。
– ボルトの回し痕、部品ロットや製造年週の不一致。
– ペイント膜厚計による異常な膜厚(切り継ぎ境界や再塗装の推定)。
– ボディ寸法基準値との照合(アライメントベンチ等)。
– オークションや第三者機関(AIS、JAAA、日本自動車査定協会など)の検査員は、これらの観点で「修復歴の有無」を判定し、評価票に記載します。
根拠となる主な基準・ガイドライン
– 日本自動車査定協会(JAAI)の中古自動車査定基準
– 「修復歴車とは、車体の骨格部位(ダッシュパネル、ピラー、ルーフ、フロア、クロスメンバー、インサイドパネル、サイドメンバー、ラジエータコアサポート等)に損傷があり、交換または修正したもの」と定義。
骨格部位に該当しない外板等の交換・補修は修復歴に含めない、という立て付けです。
– AIS(第三者車両検査機関)の車両評価基準
– 骨格部位の範囲と、交換・修正の有無で「修復歴」を判断する運用を明示。
ラジエータコアサポート、クロスメンバー、フレーム、ピラー、ダッシュ、ルーフ、フロア、インサイドパネル等を骨格に含める旨が示されています。
– 中古車オートオークション各社(USS等)の出品規約・評価基準
– 出品票における「修復歴車」の判定項目として、バックパネル、コアサポート、ピラー、サイドメンバー、フロア、ルーフ等の骨格部位の交換・修正を列挙。
上部コアサポートのボルト留め単体交換の扱いなど、各社で軽微案件の運用差が言及されることがあります。
– 自動車公正取引協議会(公取協)「中古自動車の表示に関する公正競争規約・運用基準」
– 景品表示法に基づく自主規約で、修復歴のある車はその旨を明瞭に表示する義務があるとされ、定義は上記の査定・鑑定基準に準ずる運用が一般的です。
虚偽・誤認を招く表示は不当表示に該当し得ます。
実務上の留意点(購入・売却時の対策)
– 「修復歴なし」表示の裏取り
– AISやJAAAなど第三者機関の車両状態証明書の提示を求める。
– オークション評価票(あれば)や点検記録簿、板金見積書・写真等の保管書類を確認する。
– 骨格部位の交換・修正の有無を部位別に口頭で確認し、可能なら書面化する。
– 価格と保証
– 修復歴の有無は価格に大きく影響します。
修復歴なしであっても、外板の複数パネル交換・再塗装歴が多い場合は相場からの乖離要因となり得ます。
– 納車後に「修復歴あり」が判明した場合の対応(返品・減額・修理負担等)を売買契約書に明記しておくと安心です。
– EV/ハイブリッドの特有論点
– トラクションバッテリーケースやアンダーフロアが構造体と一体化している車種では、バッテリーハウジングやアンダーカバーの損傷・交換が骨格修理に該当する場合があります。
評価基準の最新版やメーカーのボディ構造図での確認が望まれます。
まとめ
– 「修復歴なし」は、骨格部位の修理・交換歴がないことを示す業界基準の表示です。
– どこまでが修復歴かは、骨格部位の範囲と「交換・修正」の有無で決まり、外板や付属品の交換・塗装は通常は含まれません。
– ラジエータコアサポートの一部など、軽微事例の扱いに差異があるため、第三者の評価書や部位別の確認が有効です。
– 「無事故」と同義ではなく、冠水・火災等の別軸リスクもあるため、総合的な情報開示と検査結果の確認が重要です。
本回答は一般的な業界基準に基づく情報提供であり、最終的な判断は各鑑定機関や販売事業者の評価書・契約条件に従います。
具体車両については、JAAIの査定基準、AISやJAAAの評価基準、自動車公正取引協議会の公正競争規約・運用基準を参照し、必要に応じて第三者鑑定を受けることを推奨します。
修復歴の有無は誰がどの基準で判定し、どんな検査項目があるのか?
ご質問の「修復歴なし」について、誰がどの基準で判定し、どんな検査項目があるのか、そしてその根拠まで、できるだけ実務に即して整理します。
結論から言うと、「修復歴の有無」は中古車業界で共通化された“骨格(主要構造部位)に関する損傷・修理の有無”で判定され、第三者検査機関や査定士、オークション会場の検査員などが、統一基準に沿って目視・計測・実走チェック等で確認します。
外板やボルトオン部品の交換は原則「修復歴」に含まれません。
1) 修復歴とは何か(定義の中身)
– 基本定義 車体の骨格(主要構造部位)に損傷が発生し、それを修理(修正・交換・切継ぎ等)した経歴がある車を「修復歴あり」とし、それがない車を「修復歴なし」と表示します。
– 骨格部位に含まれないパネル(ボンネット/フェンダー/ドア/バンパーなど外板のボルトオン交換)や軽微な板金塗装は、どれほど広範囲でも「修復歴」には該当しません。
修復歴判定のポイントは“骨格に及んだかどうか”です。
– エアバッグ展開、水没、雹害、全塗装、電装交換なども、骨格に損傷・修理が及んでいなければ「修復歴」とは別区分(事故歴・損傷歴・被害歴・塗装歴などの情報)として扱われます。
2) 誰が判定するのか(主な主体)
– 第三者検査機関の検査員
例 AIS(株式会社オークネット系の車両検査)、JAAA(日本自動車鑑定協会)、JAAI(日本自動車査定協会の査定士による状態検査)など。
販売店に付く「車両状態証明書」は多くがこれら第三者検査に基づきます。
– オートオークション会場の検査員
例 USS、TAA、CAA、HAAなど。
出品車の下見・評価点付与時に修復歴の有無が判定されます(R点や事故車表記等)。
– 販売店・買取店の査定担当者
JAAIの「自動車査定士」資格保有者が査定基準に従って判定します。
大手は社内基準+第三者検査を併用。
– 車体整備工場・ディーラーの板金塗装部門
修理履歴や修理方法(切継ぎ・溶接・骨格修正機の使用など)から骨格修理の有無を特定できる場合がありますが、最終的な表示は上記の業界基準に沿って販売事業者が責任表示します。
3) どの基準で判定するのか(業界共通ルール)
– 中古車の表示ルールは「自動車公正取引協議会(自動車公取協)」が定める「中古自動車の表示に関する公正競争規約・同施行規則・運用基準」に準拠するのが原則です。
これは景品表示法に基づく公正競争規約で、消費者保護の観点から“修復歴の定義と表示方法”を統一しています。
– 上記規約・運用基準に沿って、JAAI(自動車査定協会)の自動車査定基準書、AISの車両検査規準、JAAAの鑑定基準、オークション各社の査定基準が整合化されています。
文言や部位名の呼び方には若干の差があっても、骨格の考え方と判定ロジックは概ね共通です。
4) 骨格(主要構造部位)の代表例
モノコック車(一般的な乗用車)では、概ね次のような部位が「骨格部位」として扱われます(各機関で名称差はあるが趣旨は同じ)。
– サイドメンバー(フロント/リア)
– クロスメンバー(フロント/リア)
– インサイドパネル(フロントを中心に)
– ダッシュパネル(エンジンルームと室内の隔壁)
– ピラー(A/B/Cピラー)
– ルーフパネル
– フロアパネル(メインフロア・トランクフロア)
– ラジエータコアサポート(溶接部位を骨格扱いとするのが一般的。
ボルト止めのアッパーのみ交換は骨格扱いにしない運用が多い)
– バックパネル(リアエンドの骨格)
– ラダーフレーム車(SUV/トラックなど)では、フレームの曲がり・切継ぎ・交換・加熱修正等があれば修復歴に該当します。
注意点
– 外板のクォーターパネルやドア外板などは原則「骨格外」ですが、交換や板金に伴いインナーパネルやピラーなど骨格に加工・修理が及べば「修復歴あり」となり得ます。
– サブフレームやボルトオンのメンバー類は、運用基準上「骨格に含めない」扱いが一般的ですが、損傷原因や修理内容によっては別途重要なマイナス要素として評価されることがあります(修復歴の有無とは別軸で説明・価格に反映)。
5) 具体的な検査項目・手順(代表的な実務)
第三者機関や査定士は、以下の観点で総合判定します。
検査時間は30〜90分程度が多く、オークション会場は短時間高精度の専任検査です。
– 外観の形状・建付け
ドア・ボンネット・トランクのチリ(隙間)や面のうねり、塗装肌の差、色の差。
ガラスやモールの交換痕。
鈑金パテの厚み兆候。
– 塗膜厚の計測
膜厚計で複数点をスキャンし、極端な厚み・不均一から板金や交換範囲を推定。
外板の塗替えは修復歴の直接要件ではないが、骨格周辺の厚み異常は要注視。
– エンジンルーム内観察
ラジエータコアサポートの溶接痕や増し打ち跡、サイドメンバー先端のシワ・修正痕、シーラーの塗り直し、純正スポットピッチとの差異、ボルト頭の回し痕・塗装割れ。
– 下回り・フロア
リフトアップでフロアパネルの波打ち・折れ・切継ぎ、メンバーの修正機クランプ痕、溶接・加熱の痕跡、サビ腐食の進行具合。
– 室内・トランク内
ダッシュパネルの歪み、トランクフロアのシワ・切継ぎ、バックパネル修理痕、内張りを外さず確認できる範囲のスポット痕・シーラー。
– 開閉・作動・走行チェック
ドアやゲートの建付け、異音、ハンドルセンターのズレ、直進性、アライメント兆候、タイヤ偏摩耗。
軽い試走で骨格歪みの感触を補足。
– 電装・安全装置のログ
エアバッグ展開履歴等のDTC確認は参考情報(修復歴の直接要件ではない)。
ガラス刻印(年式差)や灯火類の製造時期差も参考に。
6) 判定の考え方(どこから“修復歴あり”になるか)
– 骨格部位に「損傷+修理(修正・交換・切継ぎ・溶接等)」が認められる場合は「修復歴あり」。
– 骨格部位に損傷があるが未修理=通常は重大な不具合として扱われ、出品不可・要修理等の扱い。
販売時の表示は当然「修復歴あり」相当の説明が求められる(実務上は修復後に再評価)。
– ボルトオン外板の交換のみ、軽微な鈑金やタッチアップのみは「修復歴なし」。
ただし、表示ルール上は「キズ・凹み・補修の有無」など別途状態説明は必要。
– エアバッグ展開履歴や水没・冠水は「修復歴」とは別概念。
販売表示上は告知必須の重大情報で、価格・評価に大きく影響します。
7) 表示・法的背景とトラブル時の扱い
– 法令面 道路運送車両法には「修復歴」の直接規定はありません。
消費者保護の実務は景品表示法に基づく「不当表示の禁止」と、公正競争規約(自動車公取協)が担っています。
– 業界規約 自動車公取協の「中古自動車の表示に関する公正競争規約・同施行規則・運用基準」に、修復歴の定義・骨格部位の考え方・表示方法が定められています。
事業者はこれに従うことで表示の適正化と消費者の比較可能性を担保します。
– トラブル対応 「修復歴なし」として販売された車に、実は骨格修理があった場合、景品表示法上の不当表示に該当し得るため、契約解除・返金・損害賠償・行政指導等の対象になり得ます。
公取協加盟事業者は自主是正の枠組みや苦情処理制度の対象になります。
8) グレーゾーンと近年の傾向
– 部位境界の細則 ラジエータコアサポートのうちボルト固定のアッパーは骨格外、下側溶接部は骨格扱いとする運用など、部位ごとの細目が存在します。
サブフレームやボルトオンのクロスメンバーは骨格外とするケースが一般的ですが、損傷の深刻度は必ず説明されます。
– 高年式車の精巧修理 高度な板金・溶接で痕跡が極めて少ない事例もあり、膜厚計・寸法計・治具跡の観察など複合的手法が重要に。
第三者機関の証明書が重視される理由です。
– EV/ハイブリッド フロア一体型バッテリーケースやフロアパネルの修理・交換は骨格判定に関わる可能性が高く、各機関の運用基準に沿って慎重に判断されます。
9) 購入者が確認できる実用ポイント
– 車両状態証明書(第三者機関のレポート)を確認する。
修復歴欄と、骨格部位の「交換・修正・無し」の明細を見る。
– 下回り・エンジンルーム・トランク内のシーラー、スポット溶接痕、ボルト頭の回し痕に注目。
左右対称性や純正然とした仕上がりかを比較。
– 走行テストで直進性・ハンドルセンター・異音をチェック。
タイヤの片減りもヒント。
– 可能なら納車前点検でリフトアップ確認、販売店に「骨格部位の修復歴はありません」の書面をもらう。
第三者保証や返品条件も確認。
10) 根拠(参照すべき規準・資料)
– 自動車公正取引協議会
「中古自動車の表示に関する公正競争規約」および「同施行規則・運用基準」
→ 修復歴の定義、骨格部位の考え方、表示方法の根拠となる業界統一ルール
– 日本自動車査定協会(JAAI)
「自動車査定基準・細則」および査定士運用テキスト
→ 査定時の修復歴判定、骨格部位の具体例、価格減点の考え方
– AIS(車両検査機関)
「AIS車両検査規準」「車両状態評価書」
→ 第三者検査での骨格判定、評価点・R判定の基準
– 日本自動車鑑定協会(JAAA)
「鑑定基準・鑑定書」
→ 第三者鑑定での修復歴判定方法
– オートオークション各社
「検査基準・評価点基準」
→ 出品車の修復歴基準(R点等)と該当部位の定義
まとめ
– 修復歴の有無は、骨格(主要構造部位)に及ぶ損傷・修理の有無で決まります。
– 判定者は第三者検査機関の検査員、オークション検査員、JAAI査定士など。
各者は自動車公取協の表示規約に整合する基準で統一運用します。
– 検査は目視・計測・下回り観察・走行チェックなど多面的に行い、溶接・シーラー・スポット痕・クランプ痕・塗膜厚・建付けなどから骨格修理の有無を総合判断します。
– 根拠は自動車公取協の規約・運用基準、JAAIの査定基準、AIS/JAAA/オークションの検査基準。
これらに基づく表示は景品表示法の趣旨に沿う消費者保護のための統一ルールです。
「修復歴なし」は“骨格にダメージや修理が及んでいない”ことを意味しますが、外板の補修や塗装歴はあり得ます。
購入時は第三者の車両状態証明書と、販売店の説明・書面を併せて確認すると安心です。
「修復歴なし」は価格・リセール・安全性にどのような影響を与えるのか?
結論から言うと、「修復歴なし」は中古車市場で強い価値を持ちます。
価格は高めに維持されやすく、リセール(再販)でも有利で、平均的な安全性の期待値も高くなりやすい、というのが大筋の傾向です。
以下、定義の確認から、価格・リセール・安全性への影響、その根拠まで体系的に解説します。
まず「修復歴」の定義
– 日本の中古車市場では、修復歴とは「車体骨格(構造部位)に損傷があり、交換や修正が施された履歴」を指すのが標準です。
骨格とは一般に、ピラー類、サイドメンバー、クロスメンバー、ダッシュパネル、フロア、ルーフ、トランクフロア、インサイドパネル等とされます。
– 逆に、ボルト止めの外装(フェンダー、ドア、ボンネット等)や、サスペンションアーム・ショック、バンパー等の交換・塗装だけでは「修復歴」とはみなさないのが一般的な基準です。
– この定義は、業界団体の表示ガイドライン(自動車公正取引協議会)、査定機関(日本自動車査定協会 JAAI)、第三者鑑定(AIS、JAAA)、大手オートオークション(USS、CAA、TAA等)の評価基準に共通する枠組みです。
価格への影響
– 相場差の目安 同条件(年式・走行距離・グレード・状態)で比べると、修復歴ありは概ね10〜30%程度安くなる傾向があります。
骨格損傷が重い、交換部位が多い、車齢が新しい・高額帯(輸入車・スポーツ・ハイグレード)ほどディスカウント幅が大きくなり、30〜50%に達するケースも珍しくありません。
逆に軽微な骨格修正・年式が古い・低価格帯では差が縮みます。
– 形成メカニズム 価格差は単なる心理的要因ではなく、以下の実務的要因で説明できます。
1) オートオークションの評価点と入札母集団 多くの会場で骨格修復車は評価点R/RAなどに分類され、参加バイヤーが減り、落札競争が弱くなります。
結果として下支え価格が低下します。
2) 融資・保証・商品化コスト 一部の保証会社や延長保証商品は修復歴ありを条件付きまたは対象外にすることがあり、販売店の取り扱いリスクや商品化コスト(追加整備・再鑑定)が上がります。
その分、買取価格は抑制されます。
3) 認定中古車・小売戦略 多くのメーカー系認定中古車プログラムは修復歴なしを条件とし、販路と客層が広い「認定枠」に載せられません。
販路制限は利ざや縮小につながり、仕入れ価格(=相場)が下がります。
4) エクスポート需要 日本の中古車は輸出ニーズが厚く、輸出先バイヤーが「修復歴なし」を強く好むため、流動性と価格が高まりやすい一方、修復歴ありは輸出対象から外れがちで相場の下押し要因になります。
– まとめると、「修復歴なし」は買い手の裾野が広くなり、金融・保証を含めた商品性が高いため、相場が底堅くなります。
リセール(再販価値)への影響
– 将来売却時の安定性 修復歴なしは、需要母集団が広く、年式が進んでも相場指標に沿って売りやすいです。
逆に修復歴ありは、年数が経つほど購入層が限定され、買取店も在庫リスクを織り込んで安全側の査定を出す傾向が強まります。
– 売却までの期間(在庫日数) 業者の感覚値として、修復歴なしは掲載から成約までのリードタイムが短く、在庫回転率が高い。
修復歴ありは価格調整を重ねないと動きにくいことが多い。
結果として将来的な値崩れを誘発します。
– 残価の振れ幅 市場変動時(燃費高騰期にハイブリッド需要が急伸、円安で輸出強含み等)に、修復歴なしの方が相場上昇の追随が速く、ディスカウント幅が小さくなりやすいです。
– 実務上の扱い 下取り・買取査定では、真っ先に「骨格部位の交換・修正の有無」を確認します。
テスターやリフトアップのうえで、溶接跡・シーラーの打ち直し・塗膜厚・ボルト回りの工具痕などをチェックし、修復歴の有無が査定段階で明確に価格へ転嫁されます。
安全性への影響
– 平均値としての安全余裕 修復歴ありは骨格強度・衝突エネルギーの逃がし方が新車設計から外れている可能性があり、二次衝突時の挙動が不確実になります。
最新車は高張力鋼やホットスタンプ材、構造用接着剤などを複合的に用いて衝突エネルギーを管理しますが、これらの再現にはメーカー手順・設備・溶接/接着管理が必要です。
不十分な修理はクラッシュパスを乱し、乗員保護性能を損ねうるため、統計的には「修復歴なし」のほうが安全性の期待値が高くなります。
– エアバッグ・センサー・ADAS 前後の骨格修理やパネル交換に伴い、エアバッグセンサー、衝突被害軽減ブレーキ(ミリ波/カメラ)、レーダー、超音波センサー、アライメントの再調整(エーミング)が必要です。
日本では2020年に「自動車特定整備制度」が導入され、これら先進安全装置の整備は認証要件が課されました。
適切な校正が行われていない修復歴車は、誤作動・作動遅れ・作動せずといったリスクが増えます。
結果として「修復歴なし」の方が、装置本来の性能が確保されている確度が高いと言えます。
– 直進性・操縦安定性・タイヤ摩耗 骨格修理後にホイールアライメントを取っても、サブフレームの装着精度や取付座面の歪みが残れば、偏摩耗や直進性の違和感が出ることがあります。
長期的にはサスペンションブッシュの劣化偏り、異音リスクの上昇にもつながります。
– ただし注意点として、修復歴なしでも絶対安全を保証するわけではありません。
ボルトオン交換のみ(修復歴には該当しない)でも事故の衝撃を受けているケース、あるいは水没・冠水・塩害・粗悪整備など、別種のリスクは存在します。
結局は個体評価と整備記録が重要です。
根拠(制度・市場慣行・技術的背景)
– 表示・定義の根拠 自動車公正取引協議会の「中古車の表示に関するガイドライン」では、骨格部位の修復の有無の明示が求められます。
JAAI(日本自動車査定協会)やAIS/JAAA等の鑑定機関でも、骨格関連の交換・修正が「修復歴」に該当する明確な基準を公開しています。
– オートオークションの評価と価格形成 USSやCAA、TAAなど業者向けオークションでは、修復歴車にR/RAなどの評価点が付与され、出品票に骨格部位の修復内容が記載されます。
この評価区分は落札価格の主要因となり、相場データ(業者向け会員情報)にも一貫して反映されています。
市場参加者が多数・情報が対称に近い環境であるため、修復歴の有無が価格へ体系的に織り込まれていること自体が根拠です。
– 認定中古車・保証の基準 メーカー系認定中古車(トヨタ認定、日産認定、ホンダ認定、メルセデス認定など)は骨格修復車を原則対象外とし、第三者検査や車両状態証明書で「修復歴なし」を確認した上で販売します。
また、延長保証や一部の中古車保証商品では、修復歴あり車両に免責や条件が付く例があります。
これらの商品性の違いが下取り・買取価格に直結します。
– 整備・安全の制度的裏付け 国土交通省の自動車特定整備制度により、ADAS関連装置の取り外し・取付・校正には認証が必要で、適正作業の重要性が制度化されました。
修復歴車ではこれらの作業機会が多くなり、作業品質が安全性に影響するという構造的背景があります。
– 工学的根拠 車体構造はクラッシャブルゾーンとキャビンの強固部の役割分担で衝撃を制御します。
骨格の切開・溶接・交換は局所的な剛性とエネルギー吸収特性を変え、設計通りの変形モードが再現されない可能性が生じます。
メーカーの修理書に準拠した設備・材料・工程(スポット溶接機の電流管理、構造用接着剤の種類と硬化管理、ホットスタンプ材の扱い等)を満たさなければ、性能復元は困難です。
例外・補足
– 適切に記録・写真・部品伝票が揃い、メーカー手順どおりに修理された軽微な修復歴車は、日常使用に十分耐える個体もあります。
予算が限られる場合、状態と修理品質を確認できるなら、価格メリットとトレードオフで選択肢になりえます。
– 一方で、修復歴なしでも、粗悪な板金や冠水歴など別のマイナス要素があれば、価格・安全・リセールは下がります。
「修復歴なし=無事故・無傷」ではありません。
修復歴はあくまで骨格修理の有無に関する業界用語です。
実務的な見極めポイント
– 第三者の車両状態証明(AIS/JAAA等)を確認する。
– オートオークション発行の出品票や評価点が残っていれば入手する。
– 修理記録(作業指示書、写真、部品伝票、エーミング実施記録)を求める。
– 実車での確認 溶接跡やシーラーの打ち直し、塗膜厚のムラ、ボルト頭の回し痕、ガラス刻印年式の不一致、アライメント・直進性、タイヤ偏摩耗、ADAS作動状況。
– 販売店の保証条件と適用範囲(特に電装・ADAS)をチェック。
まとめ
– 価格 修復歴なしは相場が高めに安定。
修復歴ありは10〜30%(重いケースで30〜50%)のディスカウントが一般的。
– リセール 修復歴なしは需要が厚く、売却しやすく値崩れしにくい。
修復歴ありは販路・保証・輸出で制約が多く、将来の下取りも厳しめ。
– 安全性 修復歴なしの方が、衝突安全・ADAS機能・操安性の面で設計性能が保たれている期待値が高い。
修復歴ありは修理品質次第でリスクが増加。
– 根拠 業界の定義・表示ガイドライン、オークション評価と相場、認定中古車・保証の基準、国交省の整備制度、車体工学の観点が相互に裏付けています。
結局のところ、「修復歴なし」は価格・リセール・安全性の三点で平均的に優位です。
車両個体差はあるものの、市場全体としての期待値を最大化したいなら、修復歴なしを選ぶ合理性は高いと言えます。
購入・売却いずれでも、第三者鑑定と記録の裏付けを活用し、個体評価を丁寧に行うことが最良の防御策です。
「修復歴なし」でも見落とされがちなリスクは何で、購入前に何を確認すべきか?
ご質問の「修復歴なし」でも見落とされがちなリスクと、購入前に何を確認すべきか、そして根拠について、実務での点検観点と制度上の定義を交えて詳しく解説します。
まず「修復歴なし」の意味と限界
– 中古車業界でいう「修復歴」とは、車の骨格(主要構造部)に及ぶ損傷を修理・交換した履歴を指すのが一般的です。
具体的にはピラー、サイドメンバー、クロスメンバー、ラジエーターコアサポート、ダッシュパネル、フロア、ルーフパネルなどの交換・修正が対象です。
– 公益社団法人 自動車公正取引協議会が定める「中古自動車の表示に関する公正競争規約・運用基準」や、一般財団法人 日本自動車査定協会(JAAI)、AIS等の査定基準でも、骨格部位の修理・交換が「修復歴車」の判定軸です。
– つまり「修復歴なし」は、骨格に手が入っていないことを意味しますが、外板の交換や再塗装、軽微な板金、エアバッグ展開、電装系の事故・浸水、腐食といった“骨格以外”のダメージ・劣化は含まれない場合が多い点が限界です。
「修復歴なし」でも見落とされがちな主なリスク
– 外板のみの交換・再塗装
ドア、フェンダー、ボンネット、バンパー、ヘッドライト、ガラス等のボルトオン部品は交換されていても「修復歴なし」と表示されることがあります。
塗装の色味差、オーバースプレー、塗膜の厚み不均一、ガラスやランプの製造年式の不一致などで判明します。
– エアバッグ展開歴・シートベルトプリテンショナー作動歴
骨格に影響のない正面・側面の軽度事故でSRSが作動しても、修復歴の定義上は含まれないことがあります。
作動歴は電装診断や交換部品記録で確認が必要です。
– メーター交換・巻き戻し、走行距離不明
走行距離の信頼性が確保されていない車両は、外観が綺麗でも実質的な消耗が進んでいるリスクがあります。
走行距離管理システム照会や記録簿の突合が重要です。
– 冠水・浸水・塩害
床上浸水や海風・融雪剤による腐食は骨格修理を伴わずとも重大リスク。
電装・コネクタ腐食、シートレール錆、ハーネス内浸水などが後年の不具合を誘発します。
– 下回り・サブフレーム・足回りの歪みやサビ
ジャッキアップ不良や縁石衝突でロアアーム、サブフレームが曲がっても、骨格扱いにならず「修復歴なし」となることがあります。
直進性不良やタイヤ偏摩耗の原因になります。
– 駆動・変速機系の持病や消耗
CVTのジャダー、ATの変速ショック、デファレンシャル異音、4WDカップリングの劣化など、事故歴とは無関係に高額修理リスクがあります。
– エンジン固有の弱点
直噴のカーボン堆積、EGR詰まり、ターボのオイル漏れ、タイミングチェーン伸び、ウォーターポンプやサーモスタット故障、冷却系の圧漏れ等は「修復歴」とは別次元の故障リスクです。
– ハイブリッド/EVの高電圧バッテリー劣化
充放電回数や高温環境での使用でSOHが低下。
一部ではBMSリセットにより一時的に良好表示となる例も報告されます。
保証適用範囲や劣化診断が不可欠。
– ADAS(先進安全装置)の不具合・未再校正
フロントガラス交換やバンパー脱着でミリ波レーダーやカメラのキャリブレーションが必要になります。
未実施だと誤作動や警告が出たり、作動しないリスクがあります。
– 内装・臭気・使用環境の問題
喫煙、ペット、カビ臭、芳香剤でのマスキングは下取り価値や快適性に影響。
短距離走行中心、アイドリング多用、過積載・牽引歴など使用実態も寿命に影響します。
– 法令対応・リコール未実施や違法改造
未実施リコールや、車検非対応のマフラー/灯火類/車高/タイヤ外径など。
後から是正に費用がかかることがあります。
– 長期在庫・放置による劣化
タイヤのフラットスポット、バッテリー劣化、シール硬化、燃料劣化、ブレーキ固着など、走行距離に現れにくい劣化があります。
購入前に確認すべき具体的なポイント
外装・骨格の手掛かり
– パネルのチリ(隙間)と段差の左右差、開閉フィールの違和感。
– ボルト頭の工具痕、シーラーの塗布パターンの不自然さ、スポット溶接痕の間隔不揃い。
– 塗装の肌・艶・オレンジピールの差、モールやゴムへのオーバースプレー。
– ガラス、ランプ、シートベルトタグの製造年週の一致。
年式と著しく異なる場合は交換の可能性。
– 錆・腐食 フロントサブフレーム、ロッカーパネル内側、ジャッキポイント、リアフェンダー内縁、フロア下の錆。
浸水・冠水の痕跡
– 室内カーペット下の泥・砂、シートレールの錆、シートベルトを最後まで引き出した先端の水跡。
– スペアタイヤハウスの水溜まり痕、テールランプやヘッドランプ内の結露・曇り。
– エンジンルーム内のコネクタ緑青、アースポイント腐食、エアクリーナーボックス内の汚れ。
機関・足回り
– 冷間始動からのアイドリング安定性、異音(タペット音、ベルト鳴き、インジェクター打音)。
– オイル漏れ・にじみ(ターボ周り、カムカバー、オイルパン、ドライブシャフトシール)。
– ブーツ破れ(ステアリングラック、ロアアーム、ドライブシャフト)、ブッシュのひび割れ。
– ブレーキローターの段付き、ジャダー。
ショックのオイル滲み。
電装・診断
– OBD2スキャナで故障コード(DTC)、永久DTC、作業直後クリアの有無、準備運転(モニター)完了状態を確認。
– SRS、ABS、エアバッグ、レーダー・カメラ系の異常灯が自己診断後に消灯するか。
– ハイブリッド/EVはメーカー系診断でバッテリーSOHやセルバランス確認。
日産リーフ等は専用アプリでバーや内部温度の挙動も参考。
試乗でのチェック
– 直進性とハンドルセンター、加減速時の横流れ、手放しでの片寄り。
– 段差通過時のコトコト音、ギシギシ音、フロント・リアの底付き感。
– CVTの滑り感やジャダー、ATの2→3速等でのショック、キックダウンの遅れ。
– 40〜80km/hのハンドルブレ、ブレーキング時の振動、偏摩耗の有無。
– 4WD切替、クルコン、ACC、LKAなどADASの作動確認。
書類・履歴
– 車検証の初度登録、型式、原動機型式、使用者履歴。
記録簿の連続性(年月日・走行距離が時間軸で合理的か)。
– 点検整備記録簿・納品書・リコール実施記録、領収日付・走行距離の突合。
– 走行距離管理システム照会(オークション経由車なら評価書や走行距離チェックの記録)。
– リコール・サービスキャンペーンの実施状況(国土交通省の検索サイトで車台番号照会)。
– 鍵の本数、取扱説明書、整備手帳、純正ツール・ジャッキ・スペア関連の有無。
第三者評価・下回り確認
– リフトアップ(工場か予備車検場)で下回り・サブフレーム・フロアの波打ちや新旧部品の混在を確認。
– AISやJAAA、ディーラー系の第三者検査で車両状態評価書を取得。
塗膜計測(ペイントゲージ)で再塗装の有無を数値化。
価格・契約条件
– 本体価格以外の諸費用内訳(登録代行、車庫証明代行、納車費用、整備費用、法定費用、延長保証)を事前提示させる。
– 現状販売か法定整備付か、保証期間・保証範囲(動力系・電装・ハイブリッド系)の線引きを書面明記。
– クーリングオフは店舗販売の中古車には原則適用されないため、契約前の試乗・点検・条件明記が重要。
上記の根拠・理由
– 修復歴の定義は、自動車公正取引協議会の運用基準やJAAI・AISの査定基準で「骨格部位の修理・交換」を中心に規定されています。
このため外板交換や再塗装、SRS作動歴は修復歴に含まれないケースが実務上多く、表示だけではリスクが掴めないのが実情です。
– 走行距離は、オークションや業界の走行距離管理システムで過去記録を照合する運用が確立され、記録簿と照合して合理性を確認するのがセオリーです。
記録の断絶や不一致は要注意サインです。
– 浸水・腐食は、電装コネクタやシートレールの錆、カーペット下の堆積物など、物理痕跡が長期に残るため、目視点検が有効です。
冠水車は短期的に問題が出なくても、後から電装不良が顕在化する事例が多く、保険・査定上も大幅減価対象になります。
– ADASはメーカー整備書で脱着後のキャリブレーションが指示されており、未実施だと作動不全・警告の原因になります。
フロントガラス交換やバンパー修理歴がある車は特に確認が必要です。
– ハイブリッド/EVのバッテリーは、各社の保証規定(年数・距離・SOH閾値)で適用範囲が定められており、SOHは専用診断でしか正確に把握できません。
一部車種ではBMSリセットで一時的に良好に見える例があり、連続試乗や記録簿での劣化進行の整合確認が推奨されます。
– 契約実務では、公取協の規約に基づき表示義務が課される一方、店舗販売の中古車にクーリングオフは原則適用されないため、保証条件の明記や第三者検査の活用が実害予防になります。
実務的なチェック手順のおすすめ
– 事前調査 リコール検索、相場比較、当該車種の持病・対策品の有無を口コミ・技術情報で確認。
– 現車確認(昼間・屋外の自然光) 外装・内装・下回り・電装のチェックリストに沿って確認。
必要ならペイントゲージを持参。
– 診断・試乗 OBD2読取、冷間始動の観察、一般道とバイパスでの挙動確認。
ADAS作動テスト。
– 書類突合 記録簿・納品書・評価書・走行距離履歴の一貫性確認。
鍵本数・付属品の確認。
– 契約条件 保証範囲(ハイブリッド電池・ターボ・CVT等の高額部品)と免責、納車整備内容、タイヤ・バッテリー交換の有無、諸費用内訳を文書化。
– 不明点は第三者検査またはディーラー系で有償点検を依頼し、結果で交渉・購入判断。
まとめ
「修復歴なし」は重要な情報ですが、骨格以外の事故・電装・浸水・腐食・走行距離不正・機関の持病・ADAS未校正・ハイブリッド電池劣化など、多くのリスクが残り得ます。
現車の徹底点検、試乗、診断機による確認、記録簿・走行距離履歴の突合、第三者評価の活用、明確な保証条件の取り決めが、購入後の想定外コストを抑える最善策です。
制度上の定義と実車の状態評価は別物であることを理解し、表示に過度に依存せず、総合的に見極めることをおすすめします。
記録簿・車両状態証明・保証など、信頼性を高めるためにどの書類と質問が有効か?
以下は、中古車の「修復歴なし」という表示の信頼性を高めるために、どの書類をそろえ、販売店や出品者にどのような質問を投げると有効か、その理由(根拠)とともに体系的にまとめたものです。
実務で使えるチェックリストも併記します。
まず押さえるべき前提(修復歴なしの定義)
– 業界基準では「修復歴」とは、骨格(主要構造部位 ラジエータコアサポート、フロント/リアサイドメンバー、ピラー、ダッシュパネル、クロスメンバー、ルーフ、フロアパネル等)の交換・修正・切継ぎなど構造に関わる修理を指します。
外板(ドアやフェンダー)の板金・塗装やバンパー交換等は含まれません。
– この定義は、中古車の表示に関する公正競争規約(自動車公正取引協議会の基準)に基づく運用が広く採用されており、販売事業者には修復歴の有無表示が求められます。
よって「修復歴なし」でも、部分的な再塗装やボルトの脱着歴はあり得る点を理解しておくと会話がクリアになります。
信頼性を上げるために有効な書類(優先度順)
– 点検整備記録簿(整備手帳)
有効理由 時系列で整備実績・走行距離が記録され、メーター改ざんや不自然な履歴の抑止になります。
ディーラー記録が揃っている車は整合性が高い傾向。
確認ポイント 記載者(事業者名・認証番号)、日付と距離の連続性、重大修理の記録有無。
第三者の車両状態証明書(AIS、JAAA(日本自動車鑑定協会)、Goo鑑定、カーセンサー認定等)
有効理由 販売店の利害から独立した検査員が骨格判定・外装内装評価・修復歴の有無を明示。
部位ごとの評価と写真添付が一般的で、恣意性が低減します。
確認ポイント 検査実施日、評価点、骨格判定(修復歴の有無と該当部位)、損傷・補修の部位図、写真。
古い証明は現状と乖離の可能性あり。
オークション検査表(出品票)
有効理由 業者オークションでの検査結果(評価点、修復歴判定、走行距離管理照会)を確認できれば、仕入れ時点の客観データが裏取り可能。
確認ポイント 評価点、R/RA表記の有無、指摘部位、シートの発行日。
一般消費者に非公開のこともあるが、提示に応じる販売店は透明性が高い傾向。
アライメント測定結果・フレーム計測記録
有効理由 骨格に影響する事故では四輪アライメントに歪みが残ることが多く、数値で裏付け可能。
最新の測定結果が望ましい。
確認ポイント キャンバー/キャスター/トーの事前・事後値、基準値との偏差、ステアリングセンターの状態。
塗膜厚測定レポート(膜厚計プロファイル)
有効理由 再塗装・パテ施工の痕跡を数値で可視化。
骨格部位周辺の異常厚みは構造修理の示唆になることがあります。
確認ポイント 各パネルの数値分布、骨格付近(ピラー根元、コアサポート周辺)の値に不自然さがないか。
OBDスキャンレポート(診断機出力)
有効理由 SRS(エアバッグ)関連の故障履歴、ABSや車体制御のエラー履歴は衝撃や修理の痕跡把握に有効。
確認ポイント 常駐DTCの有無、過去DTC履歴、エアバッグ展開履歴の痕跡(機種により取得可否あり)。
メーカー/正規ディーラーの整備明細・リコール対応履歴
有効理由 大掛かりな修理はディーラー入庫履歴が残ることが多く、部品番号と作業内容で実態が読めます。
リコール未実施の放置はリスク。
確認ポイント 入庫日、作業名、交換部品、リコール実施済の証跡。
車台番号でメーカーサイトのリコール検索も併用。
自動車検査証(車検証)および登録事項等証明書
有効理由 所有者・使用者の推移、移転回数、使用形態(事業用・レンタアップ等)の推定に役立つ。
所有者変遷が極端に多い車は要注意。
確認ポイント 名義の変遷、使用の本拠(塩害地域等)、型式指定・類別区分番号の一致。
保険修理見積書・請求書(あれば)
有効理由 事故の規模・交換部位が具体的に把握できる。
修復歴判定の境界線上の事案でも透明化に資する。
保証書(販売店保証・メーカー保証継承書)
有効理由 「修復歴なし」表示の真実性を契約で担保できる。
メーカー保証継承は基礎的な状態チェックが行われている証拠にも。
確認ポイント 保証対象範囲、期間・走行距離、免責、修復歴発覚時の取り扱い(契約解除・返金の明記)。
出品者・販売店に投げると効果的な質問(具体例)
– 仕入れ経路は?
(業者オークション/下取り/買取)オークション検査表のコピーは見せてもらえますか?
– 「修復歴なし」の判定基準は何に準拠?
(自公取協の骨格基準か)誰が、いつ、どの方法で確認しましたか?
– 板金・再塗装歴はありますか?
ある場合、部位と理由、塗膜厚測定の結果を開示できますか?
– エアバッグ展開歴、SRS関連修理歴は?
診断機のスキャンレポートを見せてもらえますか?
– 四輪アライメントはいつ測定しましたか?
測定結果(事前/事後)を提示できますか?
– 走行距離は一貫していますか?
メーター交換歴は?
整備記録簿と距離の整合性は取れていますか?
– 下回りの腐食状況は?
塩害地域の使用歴は?
リフトアップ写真や下回りの高解像度写真はありますか?
– 水没・冠水・浸水歴の可能性は?
フロアカーペットの交換歴、シートレールやシート下配線の錆・泥の写真提示をお願いします。
– レンタアップ・社用車・試乗車歴は?
(該当時の用途を示す書類や説明)
– もし今後「修復歴あり」と判明した場合の取り扱いは?
契約書に解除・返金条項を入れられますか?
– 納車前点検で不具合が見つかった場合の整備内容と記録の提供は?
部品は純正/同等品か?
– 記載の状態証明書は最新ですか?
再検査に応じてもらえますか?
(費用負担の取り決め含む)
なぜこれらが有効なのか(根拠)
– 表示義務の根拠 中古自動車の表示に関する公正競争規約・施行規則では、修復歴の有無など重要事項の表示が求められ、定義も明確化されています。
よって基準に即した第三者証明・部位の明示要求は正当です。
– 契約上の保護 民法の契約不適合責任(旧瑕疵担保)により、説明と異なる重要な欠陥(例 修復歴なしと説明→実際は骨格修理あり)が判明した場合、追完請求・代金減額・解除・損害賠償の主張余地が生じます。
契約書に明記すれば紛争予防効果が高まります。
– 第三者検査の信頼性 検査員は統一基準で骨格判定を行い、部位単位での評価・写真記録を残します。
販売店の自己申告のみよりも審査の独立性・再現性が確保され、後日に検証が可能です。
– データ整合の重ね合わせ 整備記録、オークション検査、走行距離の時系列、OBD履歴、アライメント値、塗膜厚など、独立した複数情報源が矛盾なく一致すると、虚偽の可能性が幾何級数的に下がります(情報の相互検証)。
– トレーサビリティの確保 車台番号(VIN)で各種履歴(リコール、入庫、オークション時の距離照会等)が紐づくため、VINを軸に全資料を突き合わせることが真偽判定の王道です。
書類の限界と実務的注意
– 「修復歴なし」は骨格無事故を意味するに留まり、軽微な板金・塗装やボルトオン部品交換は含み得ます。
美観や将来価値に影響するため、塗装歴の範囲は別途把握すべきです。
– 古い状態証明や一部だけの記録は現況と乖離する可能性があります。
最新日付の証明と納車前再検査が有効。
– 大雨・冠水・海風地域での塩害や下回り腐食は、骨格修理がなくても重大リスクになりえます。
必ず下回りの現物/写真確認と防錆の状態をチェック。
– 個人売買では書類が乏しいことが多く、第三者検査を新規に実施する提案が費用対効果の高い対策です。
契約実務で有効な条項・保証の取り付け方
– 修復歴の定義を契約書に明記(自公取協の骨格基準に準拠)。
– 「修復歴なし表示に相違が判明した場合は、契約解除・全額返金(付随費用含む)に応じる」旨の特約。
– 走行距離不一致・メーター交換/改ざんが判明した場合の取り扱い(解除・減額)も明記。
– 納車前点検整備の実施内容・交換部品の記録、第三者状態証明書を引き渡し書類に含めることを契約条件に。
– 保証の対象範囲(エンジン/ミッション/電装など)、期間・走行距離、免責事項、遠方時の対応(地元整備工場での修理可否、上限金額)を具体化。
試乗・現車確認の実用チェック(補助的)
– 直進時にハンドルセンターがずれていないか、片効き・鳴き・振動(ブレーキ時/加速時)の有無。
– ドアやボンネットのチリ(隙間)・閉まり具合の左右差、ウェザーストリップや溶接スポットの乱れ。
– タイヤ摩耗の偏り(アライメント不良の兆候)、下回りの波打ち・新旧部品の不自然な混在。
– エアバッグカバーやピラー内装の外し痕、シートベルトの製造ロットの左右差。
– 室内のカビ臭・泥砂の残留・配線の腐食(冠水疑い)。
まとめのチェックリスト(購入前に揃えると強い順)
– 最新の第三者 車両状態証明書(骨格判定・写真付き)
– 点検整備記録簿の連続性(走行距離の整合)
– 可能ならオークション検査表(仕入れ時の評価点・距離)
– アライメント測定結果・塗膜厚レポート
– OBDスキャンレポート(SRS/ABS/ボディ系)
– リコール対応履歴・メーカー/ディーラー整備明細
– 車検証・登録事項等証明書(名義・使用実態の推定)
– 契約書の特約(修復歴表示相違時の解除返金、距離不一致時の対応)
– 納車前点検整備の記録引き渡し合意
このように、単一の書類や一問一答ではなく、第三者証明+整備履歴+数値データ(アライメント/OBD/膜厚)+契約上の保証という多層防御を組み合わせることが、修復歴なしの信頼性を最大化する近道です。
根拠としては、業界の基準(自動車公正取引協議会の定義・表示規約)、民法上の契約不適合責任、第三者検査の独立性とデータのトレーサビリティという3本柱が機能します。
これらを土台に、上記の書類を集め、具体的な質問で不明点を潰し、契約条項で最後のリスクをヘッジすれば、購入後のトラブル確率を大幅に下げることができます。
【要約】
「修復歴なし」とは、骨格(フレーム・ピラー・ルーフ・フロア等)に事故等で生じた損傷を交換・切り継ぎ・修正した履歴がないこと。外板や付属品の交換・塗装は含まれない。コアサポートやクォーター等は運用差があり注意。無事故と同義ではなく、冠水歴等とも別。修復歴に当たるのはサイドメンバーやピラー、ルーフ、ダッシュパネルの交換・修正など。また、検査で骨格修理痕が認められないという表示で、過去修理の公的一元記録があるわけではない。